ダイバーシティ & インクルージョン【イギリスの現状と事例】
これまでの記事にまとめてきましたように、近年、ダイバーシティの対象範囲拡⼤とともに、ダイバーシティのレベルも法で差別を禁⽌する段階から多様性尊重へと深化してきています。そんな中、弊社があるイギリスではどのような状況であるか、商品・取り組み事例(一部アメリカの事例を入れています)とともにご紹介します。
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ジェンダーにおける多様性。イギリス企業の現状は?
多様性の解釈は国によって違います。日本を含むアジアでは高齢者や障害のある方への権利、中東では宗教的アイデンティティ、そしてイギリスを含む欧州ではジェンダーにおいて多様性がより意識されているように思われます。世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している「世界ジェンダー・ギャップ報告書(Global Gender Gap Report)」2021年版では、上位20位までを占めるほとんどが、北欧をはじめとする欧州諸国。イギリスは対象135ヶ国のうち23位、日本は120位でG7の中で最下位という結果でした。では、G7の中で3位にランクインしたイギリスにおける企業の男女格差はどうなっているのでしょうか?
取締役会における女性の割合は?
取締役会とは、株式会社の業務執行の意思決定等を行う会社の核とも言える存在です。そこに女性役員はどれくらい存在しているのでしょうか?2011年、取締役会に女性を採用するよう求める英国政府報告書「デービス・レビュー」が発表されました。イギリスの代表的株式インデックス「FTSE100」採用企業100社に対し、2015年までに取締役会の女性構成比率を25%以上にする目標を掲げたものです。それにより、FTSE100企業の女性役員比率は2011年には12.5%だったのが2015年には26.1%と倍以上に増え、FTSE100企業の取締役会すべてに女性役員の配置が実行されました。男女共同参画局によると、日本でも上場企業における女性役員は2012年から2020年の8年間で約4.0倍に増えているとのことですが、イギリスの女性役員割合34.7%と比べると日本は10.7%と大きく差が出ています。
賃金において男女格差はある?
イギリスでは、第⼆次世界⼤戦後、最も早くから⼈種差別が禁⽌され、その後も対象領域を性別、障害、年齢、宗教、性的志向などに順次拡大してきました。そうして2010 年には、「平等法(Equality Act 2010)」という既存の9つの差別禁⽌法を整理・統合した包括的差別禁⽌法が制定されました。その平等法で定められた規則「2010年平等法 2017年(男女間賃金格差情報)規則(GPG法)」が2017年4月6日に施行。対象となる従業員数250人以上の企業と政府機関は、従業員に支払った賃金の男女別データを年1回報告するよう義務付けられました。2018年3月末の期限内に公表を行った1万104組織の報告結果によると、全体の78%の組織で、女性の賃金水準(中央値による比較)が男性より低く、女性の賃金水準が男性を上回る組織は14%に留まっていたそうです。この賃金格差は、賃金の平均及び中央値の比較であり職務等を考慮していないため、違法な賃金差別の存在を示すものではありません。しかし、ダイバーシティが割と進んでいるようなイギリスでも、賃金の面においては、依然として男女格差が存在しているようです。
ダイバーシティ&インクルージョンのための【商品・取り組み事例】
英国広告基準協議会(ASA) - 「有害なジェンダー・ステレオタイプを含む広告」の禁止
当協議会が広告における性別ステレオタイプについての審査を行ったところ、一部の有害なステレオタイプの描写は「あらゆる人の選択肢や野心、機会を狭めるもので、一部の広告が性別に基づく不平等を助長している」ことが示唆されたそうです。例えば、2017年に放送されていた粉ミルクAptamil(アプタミル)のテレビCM。男の赤ちゃんがエンジニアや登山者に、女の赤ちゃんがバレリーナになる様子が描かれていました。これに対し、調査に参加した、子を持つ親の中には「性別で子どもの将来の職業を特定しており、性別に対する多様性が欠けている」と感じた人がいたようです。こうしたことを背景に、2019年6月、当協議会は「有害なジェンダー・ステレオタイプを含む広告」の禁止を導入しました。これにより、CMで「男性が赤ちゃんのおむつ替えに失敗したり、女性が駐車に失敗したりするなど、性別が原因で特定のタスクに失敗する描写」などができなくなります。テレビCMは、なんとなく観ていたとしても潜在意識に影響を与え得るものです。消費者に直接届く商品やサービスではありませんが、多くの人に影響を与える力のあるメディア業界は、多様性を配慮した表現方法に、今後もより注意を払わねばならないでしょう。
Arts Council England(アーツカウンシル・イングランド) - Unlimited(アンリミテッド)
Arts Council Englandは、イングランドにおける芸術文化の持続可能な発展と、社会のあらゆる人々が芸術に触れる機会を提供することを目的とした活動を行っています。当カウンシルのプログラムUnlimitedは、ロンドンオリンピックの文化プログラムの1つとして展開されましたが、高く評価されたことによって2012年以降も継続されています。これは、簡単に言えば、障害のあるアーティストの方々を支援するための取り組みです。現状では、当カウンシルのダイバーシティ担当ディレクターによると、英国の代表的な芸術機関や文化施設600以上の団体があるうち、障害のある方は4%のしか雇用されていないということです。イギリスの人口の20%が何らかの障害を持っていることを考えると非常に少ない数値です。しかし、一見ダイバーシティと結びつかないようなアート業界においても当たり前のようにプログラムに組み込んでいる点が、イギリスのD&Iの可能性を感じさせます。
LUSH(ラッシュ) - 商品名の最適化
「All are welcome, Always」を信念に掲げるイギリスのナチュラルコスメブランドLUSHは、LGBTQ+や難民をはじめ、誰もが平等に自分らしく暮らせる社会を目指し、様々な取り組みを世界中で展開していることで有名です。昨年、アメリカの黒人男性George Floyd(ジョージ・フロイド)さんが白人警官に首を圧迫されてお亡くなりになった事件の流れから、Black Lives Matter(BLM)問題が世界中でムーブメントとなっていることは既にご存じでしょう。このことをきっかけに、LUSHではダイバーシティ問題に改めて取り組み、その一環として適切な「商品名」が付けられているかどうかの見直しを行いました。性別や人種、年齢、多様なライフスタイルなどへの配慮が十分にされているかという視点に重点を置き、「東方美人」「ブラックビューティー」など計11品を新名称に変更したということです。また、LUSHは2018年に、40色から選べるソリッドファンデーション「スラップ スティック」を発売しています。肌の色は、2000年頃まで日本の絵の具や色鉛筆に使用されていた、いわゆる「はだいろ」だけではありません。多様性を考えて展開した商品と言えるでしょう。
その他 - 人形の世界でもダイバーシティ!
イギリスの大手スーパーマーケットTESCO(テスコ)では、昨年、ライト、ミディアム、ダークの3種類からなる肌色の絆創膏を発売しました。肌色を意識した例では、アメリカの方が進んでいるかもしれません。身近な例で言うとiPhoneの絵文字に使われている肌色。2015年から増えはじめ、今では6色から選ぶことができます。また、1959年に誕生したバービー人形は、2016年頃から体型や肌のトーン、ヘアスタイルや目の色においてバリエーションが増えました。2019年には車いすのバービーが登場し、バービーハウスにもスロープが備えつけられ、人形の社会でもダイバーシティが進んでいることは大変興味深い例です。
【誰もが自分らしく生きられる社会】のための取り組みを
イギリスでは、先に書いたように平等に関する法的な枠組みが整えられており、様々な業界で多様性を尊重する取り組みが行われています。昨年、イギリスの労働裁判所がエシカル・ヴィーガニズムも「2010年平等法」によって護られるべき対象であるとの判決を下しました。このような個人的な信念までも法で護られる時代、社会がダイバーシティに敏感になりすぎていると言えなくもないでしょう。しかし、企業としてはそれに応えていかなければなりません。性別や人種だけでない多様な個性を持つ消費者が、自分らしく生きられるような商品やサービスを考えていく必要があります。