クワイエットラグジュアリーとは?富裕層から広がる消費トレンド
昨年2023年、突如ファッション界のトレンドキーワードに浮上した「クワイエット・ラグジュアリー」。イギリスのテーラードファッションブランドKaren Millen(カレン・ミレン)のGoogleデータ分析によると、「quiet luxury(クワイエット・ラグジュアリー)」の検索は2023年4月頃の1ヶ月間で373%増加し、過去最高記録に達しました。このトレンドは今年も続いており、「#quietluxury」はTikTokで6億300万回再生と、驚くほど関心を持たれているようです。
主に富裕層の間で好まれはじめたスタイルのようですが、今では一般にも浸透してきており、現代消費者の価値観や様々なジャンルの市場にも通じていることが分かります。
ファッショントレンドが経済や社会と深いところで繋がっているように、今このスタイルが流行したのには意味がありそうです。
それを探るために、まずは「クワイエット・ラグジュアリー」、そして関連ワードの「オールドマネー」「ステルス・ウェルス」とは何か?から解説していきます。
「クワイエット・ラグジュアリー」とは「オールドマネー」?
「サイレント・ラグジュアリー」「ステルス・ウェルス」とも言われる
「クワイエット・ラグジュアリー」とは、英語で「Quiet(静かな、控えめな)」+「Luxury(高級、贅沢)」と表記されるように、控えめなラグジュアリースタイルのこと。クワイエットと同様、「静かな」という意味のある「Silent」を使って「サイレント・ラグジュアリー」と呼ばれることも。
同義語には、英語で「Stealth Wealth」と表記される「ステルス・ウェルス」という言葉もあります。「Stealth」は「隠密」「こっそり」という意味があり、「富」という意味の「Wealth」と合わさって「密かな富」と訳されます。知る人ぞ知る密かなラグジュアリーというわけです。
「クワイエット・ラグジュアリー」は上質×ミニマル
具体的には、一目でハイブランドだと分かるようなロゴやモチーフのない、落ち着いたデザインの上質な装いを意味します。クワイエット・ラグジュアリー流行の火付け役と言われる「The Row(ザ・ロウ)」の製品を見ても分かるように、シンプルでミニマルでありながらも、究極の素材と専門家によって開発された仕立てのスキルがともなう高価格帯のファッションです。
同じく最近のトレンドである「バービーピンク」や「バレエコア」とは異なり、華やかさはありませんが、カジュアル寄りでもリッチなムードを纏える点が魅力です。
ファッションにおいてだけでなく、“真のラグジュアリー”というものは、誰かに見せびらかす必要はなく、謙虚さとともにあることで品格をもたらしてくれるものなのではないでしょうか。
※バレエコアとは……バレリーナにインスパイアされた韓国発祥のファッショントレンド。トウシューズやレッグウォーマー、チュール、サテン生地などを取り入れたものが多く見られる。
「オールドマネー」スタイル/ファッションの再来?
この控えめなラグジュアリースタイルが「クワイエット/サイレント・ラグジュアリー」と呼ばれるようになったのは最近ですが、それ以前にもこれと同じ概念は存在していました。それが、1980年代にアメリカから巻き起こったファッションムーブメント「オールドマネー」です。
オールドマネーとは、何世代にも渡って富を相続し蓄積してきたアメリカの一族のことです。彼らは、1920年代後半に生まれ、壮大な田舎の邸宅に住み、最高峰の教育機関で教育を受けた貴族であり、気取らないエリート意識を醸し出す、時代を超越したファッションを身に着けていました。
そんな彼らの美学やスタイルに触発されたファッションをRalph Lauren(ラルフ・ローレン)などのラグジュアリーブランドが広め、「オールドマネー(スタイル)」と呼ばれる80年代のトレンドとなったのです。
オールドマネースタイルは、ミニマリズム、快適でありながら洗練された仕立て、高品質生地、中間色が特徴です。決して時代遅れにはならないけれど、洗練された雰囲気で常にエレガントに見える。それはクワイエット・ラグジュアリーと通じるものがあり、クワイエット・ラグジュアリーはオールドマネーの派生、あるいは再来とも言われています。
なぜクワイエット・ラグジュアリー?流行のきっかけは
「インフレ」「ミニマリズム」「持続可能性」が影響
世界的なインフレで貧困格差が拡大している今、裕福であることをあからさまに見せつけるようなロゴ入りのファッションや、注目されることを意識した派手なデザインは、より広範な社会において不快とされる傾向があります。そんな世間の視線に敏感にならざるを得ない富裕層の人々は、目立つことを避け、一見平凡な高級ファッションで身を包むようになりました。
その後、このスタイルはソーシャルメディアによって、社会階級を超え、一般の人々にインスピレーションを与えることでファッション、そしてライフスタイルのトレンドとして広がったのです。
多くの人に受け入れられた背景には、コロナ禍で強化されたミニマリズム、持続可能性への意識の高まりがありました。ウィズコロナ生活で、本当に必要なもの以外が淘汰され、消費者は毎年消費される流行りのものではなく、自分が本当にいいと思ったもの、タイムレスで使い心地のいいものを選ぶようになりました。
そんな消費行動の変化とクワイエット・ラグジュアリーの出現が上手く重なったということです。
クワイエット・ラグジュアリーは、「投資対象や思慮深い買い物習慣に重点を置いた新時代のミニマリズム」とも言われています。
ポップカルチャーの影響
クワイエット・ラグジュアリーが、富裕層のみならず一般の人々からも関心を持たれるようになった背景には、アメリカのTVシリーズ『メディア王 〜華麗なる一族〜(原題:Succession)』の大ヒットもあります。このシリーズは、世界的なメディア企業帝国を経営するNYの大富豪一族ロイ家の後継者争いを描いたもので、登場人物たちの富裕層ファッションが話題になりました。
控えめなエレガンスが特徴の完璧に仕立てられたスーツ、洗練されたシルエットは、ソーシャルメディアで頻繁に引用され、模倣されています。
消費者が質で選ぶ時代。静かな贅沢はファッション以外のところでも
クワイエット・ラグジュアリーが富裕層から一般に浸透するにつれ、このトレンドはラグジュアリーファッションだけのものではなくなってきています。デザインの方向性として概念の一部を取り入れ、「クワイエット・ラグジュアリー」セクションとしているファストファッションSHEINのようなケースもあります。シンプルさやモノトーンカラーで控えめさは表現されていますが、品質はというと高級からは程遠く、一着約4-40ユーロです。また、高級ブランドではありませんが、ミニマルで品格を感じさせるユニクロの売り上げがアメリカで急増しているそうです。
さらに、インテリアや車、旅行、不動産など、他の業界にもクワイエット・ラグジュアリーの概念が応用されはじめています。
日本の職人技による丁寧で精巧な製品は、海外の消費者にとっては無名なブランドの場合もありますが、その質を理解して貰えれば高価でも求める人はいるでしょう。
本当にいいものは、敢えて声高に主張をせずとも、選んでもらえる。そんな風潮を利用したマーケティングをしてみませんか?
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出典:
https://robbreport.com/lifestyle/news/quiet-luxury-stealth-wealth-google-1234833256/
https://www.theguardian.com/fashion/2023/jun/19/succession-quiet-luxury-look-milan-fashion-week