中小企業の海外進出:イギリス市場進出のチェックリスト
見た目の美しさだけでなく、高品質で耐久性に優れた「Made in Japan」製品や、日本独自の技術が生み出すストーリー性のある伝統工芸品は、エシカル・サステナブル志向が高まる現代の潮流に合致しており、海外での需要拡大が期待されています。こうした背景もあり、海外への販路拡大を目指す日本企業は近年増加しているように見受けられます。
しかし、「海外進出したい」という思いだけでは成功は難しく、事前にどれだけ具体的かつ実践的な情報収集や市場分析ができるかが、成否を左右します。
そこで、製品やサービスをイギリス市場に展開しようと考えている中小企業の方に向けて、事前に準備しておくべき事項を簡単にリストアップしました。
海外進出までの流れ「成功させるためのチェックリスト」
1. 海外進出の目的を明確にする
「なぜ海外進出するのか」が明確でなければ、対象市場やターゲット、販売方法などを選ぶときに軸がぶれてしまい、無駄なところに予算や労力をかけてしまうことになります。
例えば、売上拡大が目的であれば現地販売パートナー探しや販路開拓が優先になり、ブランド認知が目的であれば展示会参加やポップアップ展示開催、SNSマーケティングが有効となります。つまり、目的次第でどこに時間や予算、人労をかけるかが違ってくるからです。
海外進出はコストもリスクもかかる取り組みです。だからこそ、なぜそれをやるのかをはっきりさせておくことで失敗を防ぎ、効果を最大限に発揮することが重要なのです。
2. 市場調査・戦略立案
□ターゲット市場のニーズ把握
市場規模や年間成長率(CAGR)、トレンドなどからイギリス市場における需要を把握し、ターゲット顧客層を明確にする。
□現地競合の調査・価格帯の把握
現地の価格競争力、利益率、配送コストを込みで検討。資金調達をする場合は自己資金のみ、あるいは融資や補助金などのあてはあるかも調べておく。
□規制や文化的要素の違いの理解
日本とイギリスの消費者・法制度・社会的価値観の違いを正しく把握する。日本では問題ないことでも、イギリスでは違法・販売不可・クレーム対象になることがある。
3. 法規制・税務・認可の確認と貿易実務
□輸出関連の規制確認
商品に関する英国の規制(安全基準、材質表示など)を確認する。
□関税・VAT・法人税などの税務調査
HSコードの確認、関税率、VAT登録が必要かどうかを調べる。HSコードとはHarmonized System Code(調和システムコード)の略で、国際貿易において使用される品目分類コードである。輸出入されるすべてのモノに付けられる番号で、税関での処理や関税の計算、貿易統計などに使われる。
関税については、日英包括的経済連携協定で定められている条件を満たせば撤廃される品目もあり。
□契約書や知的財産(商標・特許)の整備
英国内で商品を販売してもらう販売代理店契約や現地コンサル、ロジ業者等との委託契約、秘密保持契約、製品情報・技術・顧客情報の保護、技術・デザインを模倣・無断使用から保護する知的財産権など様々なものがある。
□インボイス・パッケージラベルの整備
英語表記・原産国表示などを適切に記載する。成分表示、使用期限、アレルゲン表示など、業種ごとの法的ラベル要件がある。
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契約や税務は日本と同じ感覚ではリスクが高いため、専門家(弁護士・会計士)との連携が必須と言えます。
4. 現地パートナーの選定
□販売代理店 / ディストリビュータ、輸入業者、現地法人設立の検討
自社製品と競合する製品や、同様のテイスト・顧客層をターゲットにしている販売代理店などをリサーチし、現地販売パートナーとしての適性を検討する。または、イギリスに子会社や現地法人を設立し、自社で直接販売・マーケティング活動を展開する選択肢もある。
□コンサルタント / 通訳 / 商社
進出初期には業界に精通したローカルの専門家に頼むとスムーズに進められる。
□物流業者 / フルフィルメント会社
フルフィルメントとは、顧客の注文を受けてから商品の配送までの一連のプロセスのこと。倉庫管理から発送、返品処理などを代行してくれる。越境EC販売の場合はAmazon FBを活用する手もある。
□信頼できるローカル弁護士・会計士の確保
英国法・税制に詳しい専門家を確保し、契約や申告でのミスを防ぐ。
□ローカルネットワーク・支援機関(JETRO、商工会議所等)との連携
各機関のマッチング支援を利用してパートナーを探す方法もある。
現地の流通網、商習慣、言語、文化に適応するために、信頼できる現地パートナーを活用することは非常に有効です。自社のみではできない部分を見極め、その分野の専門家とパートナーシップを結ぶことで、不可能と思える部分も可能になるのです。
5. ロジスティクスとオペレーション体制
□輸出入手続きと物流ルートの確立
イギリス向けの輸出入に必要な通関書類(インボイス、パッキングリスト、HSコードなど)を整備し、信頼できる物流業者を選定することで、スムーズかつコスト効率の良い輸送ルートを構築する。
□在庫管理・カスタマーサポート体制の準備
現地倉庫などの活用により適正在庫を確保し、納期遅延や欠品を防止、さらに英語での問い合わせ対応や返品処理を可能にするカスタマーサポート体制を整備しておく。
□為替リスク対策(GBP/JPY)
GBP(ポンド)とJPY(円)の為替変動によるコストや利益への影響を抑えるため、為替予約や外貨口座の活用、価格調整の柔軟性確保などを通じて為替リスクを分散・管理する。
□適切な輸送・梱包方法の選定
破損リスクを抑えた物流設計輸送中の衝撃や湿気に耐える梱包材を使用し、「取扱注意」「上向き」などの国際標準ピクトグラムを箱に明示する。トラブル時の損失に備え、海上保険や貨物保険などを付帯しておくと安心である。
6. マーケティング・販促戦略
□ブランドローカライズ
ネーミング、デザイン、キャッチコピーが現地の感覚に合っているか検証する。
□Web・SNS戦略
現地用に英語翻訳し、デザインをローカライズしたWebサイト・Instagram・Facebookページを整備する。
□広告・プロモーション
Google広告・SNS広告・現地メディアへの露出。英国ではレビューサイトも強い影響力がある。
□展示会 / ポップアップストア
実際に商品を体験できる場を設けると効果があるため、地方都市でもイベントに参加することが有効である。
□インフルエンサー活用
ローカルのインフルエンサーに紹介してもらう方法はコストパフォーマンス的にもメリットがある。
イギリスでは製品そのものよりも、製品や製造過程がサステナブルであることや背景のストーリーが重視される傾向があります。そのため、環境配慮型の素材使用や地域社会との連携、伝統技術の継承など、自社の持つ“物語”を明確に発信することで、消費者の共感や信頼を生み、ブランドとしての競争力を高めることが可能になります。
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7. 試験販売・フィードバック
□販売チャネルの選定
Etsy UK、Amazon UK、Not On The High Street、自社越境EC(Shopify)などで販売テストをしてみる。
□価格テスト
現地競合と比較した価格帯で売れるかをチェックする(VAT込み価格も確認)。
□フィードバック収集
購入者レビュー、SNSコメント、返品理由などを細かく分析する。
□ローカルモニター調査
ターゲット層に無料または割引提供し、詳細なアンケートを取るのも有効的である。
□改善と再テスト
フィードバックに基づいて商品・説明・価格・プロモーション方法を見直す。
フルスケールでの展開前に小規模にテスト販売することでリスクを大幅に抑えられます。
海外進出の前にチェックリストでリスク削減
進出先の政治・経済の安定度、自社製品に合う市場があるか、法規制上進出が可能か、人件費・労働者の質はどうか、信頼できるパートナーがいるかなどの様々な点を調査しておくことで、海外への販路拡大が本当に自社にとって利益のあることかどうかが分かります。
海外進出を決定する前に、こちらのチェックリストをぜひご活用ください。
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