1000円と980円の違いは?価格設定で心理をくすぐる方法
店頭でよく見かける「980円」や「1980円」という価格設定。これは「1000円」や「2000円」と表記されるよりも、少し得に見える「端数価格効果」を利用した、言わずと知れたマーケティングです。
この方法を用いると、視覚的に安く感じるのはもちろんですが、980円という価格を見た大半の消費者は、「1000円の商品を20円安くしてくれた」と感じ、「900円の商品を80円高く買わされる」とは感じません。
しかし、このような価格設定が消費者を惑わし、買い物をより複雑なものにしているのでは?という反感があるのも事実です。そのため最近のイギリスでは、あえて「1000円」や「2000円」のようなキリの良い「ラウンドナンバー」で金額を設定する小売業者が増えてきています。
イギリスのスーパーの価格設定
イギリス国内の1152店舗のスーパーマーケットで商品をランダムに選択し、その価格の1の位を調べるという調査が行われました。その調査では、0で終わる価格が54%を占め、9で終わるのはわずか8%でした。大手スーパーマーケットチェーンのセインズベリーズにおいては、調査した商品のうち9で終わる価格のものは一つもありませんでした。
しかし、このような価格設定をマーケティングの視点で見る場合、必ずしも良い効果をもたらしているとは言い切れません。
消費者心理が分かる価格設定の実験
高そうに見えるのはどっち?価格設定マーケティング実験
フロリダ大学で、ある被験者グループにはラウンドナンバーの価格、他の被験者グループには端数価格を伝え、それぞれの仕入れ値を言い当てさせるという実験が行われました。
チーズの価格を「5ドル」と伝えられたグループは、仕入れ値を平均で「3.75ドル」と回答し、「4.85ドル」と伝えられたグループは「4.17ドル」、「5.15ドル」と伝えられたグループは「4.41ドル」と回答しました。
チーズ以外の製品でも、同じように実験が行われましたが、結果には同じパターンが見られました。
この実験結果から分かるのは、ラウンドナンバーの価格は、商品そのものの価値を低く見せ、小売業者の利益が多いように見せてしまうということです。
実際に売れるのはどっち?価格設定マーケティング実験
アメリカのある小売業者が、インターネットで販売していた34ドルのドレスを39ドルに値上げするという、少し意地悪な実験を行いました。
その結果、注文数が約3割増加しました。
実際は5ドル高く買わされているのにも関わらず、消費者は端数効果によって、1ドル安く買っていると錯覚してしまうのです。
価格設定の方法。3つの視点とは?
では、実際に商品の価格を決めるにはどうしたら良いのでしょうか?「中小企業白書」では、企業が販売価格を設定する際に考慮すべき視点として、
① コストを回収し、一定の利益を確保できる価格に設定する(自社がいくらで売りたいか)
② 業界平均や競合他社の価格を参考に設定する(いくらで売られているか)
③ 顧客に受け入れられる価格に設定する(いくらまでなら買ってもらえるか)
の3点を挙げています。そして、①を重視している企業を「コスト起点型」、②を重視している企業を「競合起点型」、③を重視している企業を「顧客起点型」としています。それぞれ簡単な説明とともに見ていきましょう。
① コスト起点型
商品を販売することで利益を得ることを目的とした視点であるため、商品の製造にかかったコスト、つまり設備や人件費、原材料などの変動費を計算し、そこに企業が確保したい利益を上乗せして決定します。
但し、企業が売りたいと考える価格は消費者が買ってもいいと思う価格とは違うため、思うように売れない場合も出てきます。
② 競合起点型
市場には様々な企業の類似品が存在しており、それらの平均価格を元に設定します。
市場シェアが最も高い企業が市場に流通させている価格を参考にする場合もあります。その企業の商品にはない魅力を持つ商品の場合は、同価格に設定しても消費者への認知次第で対抗できると考えられます。逆に商品がそれほど変わらない場合は、価格を低く設定することで対抗します。
また、競合の少ないニッチな市場にいる場合は、より高い価格で販売し商品当たりの利益を高く確保します。
③ 顧客起点型
企業が利益を確保できるかどうかではなく、消費者が買ってもいいと思う価格かどうかを考えて設定します。価格が高ければ購入者は少なくなります。
消費者がこの商品にこの価格は高いと思うのがどのくらいの価格なのかを知ることが大切になってきます。
1000円と980円、マーケティング的な違い
「1000円と980円なんて、たいして違いがない」と考えてしまいがちですが、価格設定もマーケティングのひとつであると捉える場合、20円の違いが大きな違いになる可能性があります。
端数価格効果を取り入れた方が売れやすいとは言えそうですが、消費者に正直な企業というイメージを持たれたい場合には、イギリスのスーパーのようにラウンドナンバーを取り入れるのも悪くないかもしれません。
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出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap2_web.pdf#page=36