日本は文化の多様性を認めない国?身近な具体例,問題点&課題

日本 文化 多様性 認めない 具体例

「日本の文化の多様性」を考えたニュース

2020年の7月、トルコ政府が世界遺産アヤソフィアをモスクとして使用すると決定しました。これに対してユネスコが遺憾だと発表したということがニュースで大きく報道されましたが、アヤソフィアのモスク化がなぜそんなに問題なのかと疑問に思った方も多いでしょう。キリスト教やイスラム教の文化にあまり馴染みのない日本人にとっては、アヤソフィアが博物館であり続ける重要性が理解しづらいかしれません。

アヤソフィアのこれまでの歴史は、1500年前にキリスト教の教会として建設され、1453年にオスマン帝国によってイスラム教のモスクに作り替えられた後、1934年に宗教的に中立な立場の博物館となり、ユネスコの世界遺産に指定されました。十字軍遠征など、イスラム教文化とキリスト教文化は歴史の中で度々諍いを起こしてきたことは、歴史の授業でも習うので何となく知っている方も多いのではないでしょうか。アヤソフィアはそれらの文化が共存し合うための象徴でもあったのです。

トルコ人ノーベル賞作家のオルハン・ハムク氏は、トルコ人が持っている世俗的なイスラム教国としての誇りを奪う決定だとコメントしています。

世俗主義とは政治的な決定が宗教に左右されないことや、個人の信仰の自由を尊重することを指し、トルコの憲法にはこれが明記されているのだそうです。イスラム教国で世俗主義を唱えている国はトルコのみであるため、オルハン・ハムク氏の言う「誇り」とはこれを指しているのかもしれません。イスラム教文化と他文化の共存が認められている国であること=宗教や文化の多様性を認めている国であることへの誇りだとも言えそうです。

このニュースを見た時、自国である日本の多様性 はいかがなものだろうか?と、ふと考えさせられました。

日本は多様性のない国なのか

日本では世俗主義についてあえて語られる機会がないほど、ほとんど当たり前のこととされています。たとえば、宗教上の理由で人工妊娠中絶が認められていない国や州がありますが、日本ではそのような理由で政治的な決定が左右されることはほぼありません。

それなのに、日本は多様性がないと言われているのはなぜなのでしょうか。たしかに、日本は最も同質な民族の国の一つだとワシントンポスト紙に書かれたこともあり、他の民族や混血の人が少ないのは事実です。

多様性(ダイバーシティ)とは?

私たちが持つ多様性のイメージといえば、異なる人種、国籍、言語、宗教、文化、民族、性別等が存在している状態です。オックスフォード現代英英辞典で、多様性(diversity)を調べると、互いに大きく異なる者や物の集団や集合体(a range of many people or things that are very different from each other)とあり、このイメージが間違いでないことは分かります。

アメリカやイギリスと比較した場合、日本はたしかに民族や人種における多様性が低いことは認めざるを得ません。しかしながら、日本が単一民族の国だから多様性を認めない国だと判断してしまうのは、少し短絡的なのではないでしょうか。

文化の多様性とは?

ユネスコの文化的多様性に関する世界宣言の中には、下記のような文言があります。

地球上の社会がますます多様性を増している今日、多元的であり多様で活力に満ちた文化的アイデンティティを個々に持つ民族や集団同士が、互いに共生しようという意志を持つとともに、調和の取れた形で相互に影響を与え合う環境を確保することは、必要不可欠である。

文化の多様性を認めることで独自の文化が消えていってしまうのでは?という懸念もあるかもしれません。しかし、ユネスコの宣言の中には「文化的多様性は人類共通の遺産」だとも明記されており、多様性を認めることは他と同一化することでないことが分かります。

多様性が低いと思われがちな日本ですが、実は日本人が文化的多様性を認めながらそれを取り入れ、いつの間にか別のアイデンティティを築いたという例は意外に多いのではないでしょうか。

日本が文化の多様性を取り入れた具体例

食文化の例

醤油は元々日本で発明されたものではないにも関わらず、日本独自の調理に使用され、なくてはならないものとなっています。また、日本人の多くはラーメンと餃子を中華料理だと思っていますが、海外では日本食だと思っている人が多く、中国人でさえもそう思っているほどです。それは中国から伝来した料理が日本特有の進化を遂げ、別の食べ物としてアイデンティティを築いたと言えます。

宗教の例

冒頭で挙げた宗教の面に関しても、長い歴史において日本古来のものである神道と、大陸から伝来した仏教が上手く共存してきました。キリスト教が禁止された時期もありましたが、現在では多くの人が年末にクリスマスをお祝いし、新年に神社や寺院に初詣に出かけます。それを差し当たり変に思う人もいません。

着物とファッションの例

着物を着なくなった日本人

先日イギリスで日本の近代化に関するテレビ番組で、江戸自体末期から今年前半までの東京の映像が放映されていました。明治初頭の風景では、ヨーロッパ風の建物と日本風の建物が入り混じる街の中を英国紳士風のトップハットを被った日本人男性が往来するなど、歴史的に見て貴重な映像ではありますが、イギリス人にとっては、日本人に真似されているように感じて滑稽に見えたかもしれません。

1936年にフランスの芸術家ジャン・コクトーが来日した際に、日本人が着物を着ていないことを残念に思い、伝統を忘れて西洋化していると嘆いたという記録があるそうです。たしかに、日本の街中で着物を着ている人がいると大変魅力的に見えます。伝統的なものが放つ独自のオーラを認めざるを得ません。着物のような伝統的なものは今後も大切にしていくべきですが、日本人が洋服を着るようになったのは、その方が現代の生活様式に合っているからなのでしょう。現在でも冠婚葬祭などで着物を着る機会は稀にあるため、日本人の多くは生活の便利さを優先しながらも、必要な際に伝統を重んじるという臨機応変な対応をしています。

新たに創造された文化「日本のファッション」

V&A美術館 ロリータ ファッション

ロンドンのV&A美術館の展示(筆者撮影)

利便性を追求することから、新しい発見や文化が生まれることもあります。坂口安吾の「日本文化私観」というエッセイには、『我々に大切なのは「生活の必要」だけで、古代文化が全滅しても、生活は滅びず、生活自体が滅びない限り、我々の独自性は健康なのである。』と書かれており、「人々の生活がある限り新しい独自の文化が生まれる」と解釈できます。

着物を日常的に着なくなった日本人が洋服を着るようになり、日本のファッションという文化を産み出しました。たとえば、ロンドンのV&A美術館には日本のロリータ系ファッションの展示があります。ロリータ系ファッションのシルエットやディテールは、イギリスやフランスの貴族の衣装にルーツを持つものが多いにも関わらず、あえてロンドンの美術館に「日本のもの」として展示されているのです。

このように異文化のものに日本独自のフィルターをかけて再構築することが、現代の日本文化創造の原点となっていると考えられます。着物とロリータ系ファッションを比較してどちらが重みを持っているかと問えば、間違いなく着物と答える人が多いでしょうが、文化=伝統ではなく、文化は新しく更新されていき、それが引き継がれていくことで伝統となり重みを持つのではないでしょうか。

それでも日本は「多様性がない」理由

日本の問題点&課題

それでも日本が「多様性がない」と言われるのには、別の要因があるのでしょう。人種や民族の面に置いて多様性が低い要因には、言語や地理的な条件によって、日本が外国人にとって移住しやすい国ではないことも挙げられるため、努力によって変えるのは難しいかもしれません。

しかし外国人が少ないからといって、海外の人の文化や習慣に無頓着であって良いはずはないのです。自分の隣の部屋にいきなり外国人が住み始めたら、なんとなく怖いと感じる人が多いのではないでしょうか。そう感じていることが相手に伝われば、その疎外感から「日本は多様性が低いなぁ」と思うことでしょう。ロンドンのような都市では、近所の人が外国人という環境で多くの人が育っているため、こういった感情を持つ人があまりいません。外国人に対するマイナスのイメージは、相手をあまり知らないから生まれてくるものだといえます。相手がどのような文化や考え方の人なのかに興味を持って、それを知ることが大切です。

外国人に限らず、身近なところにも自分と異なる立場の人がたくさんいます。未婚の人や子どものいない人、正社員の人やアルバイトの人、恋愛対象が同性の人やトランスジェンダーの人など、挙げ始めると、逆に誰一人として全く同じ立場の人がいないことが分かります。自分に近い人でも、多少は異なる考え方や意見を持っているものです。「多様性」と大ごとのように捉えると、いつの間にか他人事のようになってしまうのかもしれませんが、他人の意見に耳を傾け、それを頭ごなしに否定しないことが多様性を受け入れることに繋がります。

文化の多様性のメリット

仕事のパフォーマンスの良いチームは、様々な国籍、年齢、性別、経歴を持った人々で形成されていることが多いというデータがあります。

マッキンゼーが2015年に発表した「上場企業に関する報告書」によると、経営陣における人種や民族の多様性が上位4分の1に入る企業は、収益率が業界平均を上回る可能性が35%高く、男女比の多様性が上位4分の1に入る企業は、収益率が業界平均を上回る可能性が15%高いことが分かりました。

異なる価値観の人たちが集まれば、意見の衝突や理解の難しい言動も見受けられるでしょう。しかし、それを乗り越えてそれぞれの個性を尊重し合うことで、新しいアイディアが生まれ、クリエイティブな環境を作っているのだと考えられます。それによって収益や仕事の質が向上するのです。

これは日本人が、海外から入ってきた概念に日本独自のアイディアを織り交ぜながら、斬新な日本文化を作ってきた過程に、少し似ているように思えます。異なる価値観が混ざり合うことで、より優れた結果を産み出すということは、多くの日本人がすでに体感しているかもしれません。

多様性の実現は、隣にいる少し価値観の違う人の意見を聞いてみることから始まります。

 


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