日本と海外「働き方の違い」イギリス編
海外進出を成功させるためには様々な障害をクリアしなければなりませんが、どの分野のビジネスにおいても壁となるのが文化の違いと言えるでしょう。現地採用した人材の育成や現地企業との連携など、コミュニケーションを円滑に取り信頼関係を結ぶためにも、現地の働き方やマナーを知っておくことが大切です。
今回は働き方に注目し、日本とイギリスの違いをまとめました。
海外の人が驚く日本人の働き方とは?
日本で実際に働いたことのある外国人の体験談に関するメディアをいくつか拝見したところ、主に以下の点で文化の違いを感じていたことが分かりました。
① 残業が当たり前
2019年に働き方改革関連法が成立し残業時間に上限が設けられたとは言え、残業がなくなったわけではありません。残業する人がより勤勉であると見なされたり、同僚がまだ働いている中、自分だけ帰宅しにくいと言ったような周りを気にする日本人の性格が働くためか、残業することが昔から当たり前という風習が根強くあります。
イギリスでは逆に、残業をする人は時間管理ができないと思われ、その人自身か雇用主に問題があると見なされる傾向があります。自分の仕事の範囲が明確なので、自分の仕事が終わったら帰るという態度で問題ありませんし、オンオフがはっきりとしていて、ワークライフバランスが重視されています。
② 休憩時間の過ごし方と飲み会の多さ
会社の風習や個人の性格にもよりますが、休憩時間に1人で過ごしたり銀行などで用事を済ますことに費やしたりする傾向があります。一方、イギリスでは午前と午後にティータイムを設け、誰か1人がお茶を淹れて身近な同僚たちとコミュニケーションを取りながら過ごすところもあるようです。日本でもお茶の時間があるところはありますが、古くからある会社などでは”お茶くみ”や清掃、来客対応などは女性社員がやるものといった慣例があり、同僚と平等に楽しむための休憩とは言えないでしょう。ジェンダー・ハラスメントして問題になっています。
また、日本独特の文化として、歓送迎会や打ち上げ以外にも新年会、忘年会、クリスマス会など、ことあるごとに会社での飲み会が行われ、費用も個人負担の場合があります。海外では家族との時間をより重視するため、仕事以外の時間まで上司と飲みに行くなんて考えられないという人が多いようです。
日本生命保険相互会社の男女7774人に対する調査(2021年)で「飲みニケーション」は不要とする人が約6割いたことから、アフターコロナの日本では飲み会を行わない会社も増えてくるかもしれませんね。
③ 年次有給休暇の取り方
※次項目参照
④ 終身雇用
今でも少なからず、定年まで1つの会社で働くといった考え方があり、転職の際に職務経歴書で前職の勤続期間が短いことが知られるとネガティブに取られるのでは……と気にする人が多いのではないでしょうか。新卒者を4月に一斉に雇い入れる「新卒採用」も終身雇用が根強い日本企業ならではの慣習です。
イギリスでは新卒採用がなく、大学を卒業したらインターンシップをしたり旅行に出かけたりする人もいます。枠が空いたら誰もが応募できますが、入りたい会社に枠がなければ空くまで待たなければなりませんし、企業が人を育てるという慣習がなく即戦力を求めて採用されます。転職はキャリアアップのためというイメージが強くポジティブなものとして捉えられています。
⑤ 給与体制と年功序列
終身雇用型の日本企業では、長く勤めれば勤めるほど給与や退職金がアップし、重要なポストを与えられることが多いです。しかし、年功序列型ではないイギリス企業では、能力次第で入ったばかりの人がすぐに管理職になったり、年齢に関係なく給与が決められたりすることが普通です。仕事のポストが契約上決まっていて成果が出せない場合は解雇されるという厳しい環境でもあるのです。
日本では、正当な理由なしに誰かを解雇することは「不当解雇」と呼ばれ余程のことがない限り解雇はされません。不平等に感じることもあるでしょうが、雇用がしっかりと守られているということでもあります。
⑥ 結果よりプロセスを重視、個人よりチーム
どのような行動が取られたか、問題が発生したときにどのように解決されたか、などを見て作業プロセスをさらに強化する傾向があります。
また、チームとして働いているため、同僚をライバルというよりは仲間と見なし、必要であれば手助けすることもあるでしょう。それに対しイギリスでは、個人で仕事をしている感覚が強く、契約上も仕事の範囲が明確であるため、その範囲を超えて仕事をすることはあまりありません。
その他の驚いた点では、「仕事中に私語が少ない」「会社が通勤費を出してくれる」「健康診断が義務付けられている」「サインではなく印鑑を使う」「ペーパーレス化が遅れている」「朝の打ち合わせで会社のモットーを唱える」などがありました。
日本とイギリス「労働環境に見る働き方」の違い
OECDのデータによると、英国の2020年の年間平均労働時間は1,367時間でドイツ、デンマークについで3番目に少なく、日本は1,598時間でした。1日8時間勤務とすると1ヶ月くらい余分に働いていることになります。
また、エクスペディアが発表した「世界19カ国を対象に実施した有給休暇に関する国際比較調査」の結果では、日本人の有給休暇取得率は19カ国中で最下位の50%。上司が有給の取得に協力的と回答した割合も53%と最下位でした。有給休暇の通常の年間取得日数においては、イギリスは25日、日本は9日。取得率はイギリスが65%、日本が45%でした。日本では「緊急時のために取っておく」「人手不足など仕事の都合上難しい」といった理由から取得率が低いようです。
「コロナ禍において有給休暇の取得は簡単だったか、もしくは困難だったか」という質問において「変化なし」と回答した人が、日本は世界で最も多く、新型コロナウイルスの影響がなくても有給休暇取得においてはこのような結果であったことも分かっています。
給与の面では、英国のフルタイム従業員の平均年収は£31,487(4,408,180円/£1=140円)で、日本の正社員の平均年収は約3,692,400(月307,700円×12)円とのこと。通貨価値の違いがあるので単純に比較はできません。しかし、何かと仕事を優先せざるを得ない日本社会を知っている者からすると、年休が取りやすく仕事より家庭を優先しても給与がそこそこある生活について考えさせられるものがあります。
海外進出で職場文化の違いを乗り越えるために
体験談を見ると、残業をする理由や休みの取り方、仕事への姿勢などに日本人特有の性格が大きな影響を与えていることが分かります。しかし、海外ではビジネス上のルールや時間をきっちり守り、顧客のお願いであってもルールになかったり時間外であったりする場合は断ることもおかしくありません。日本では「お客様は神様」であるため、24時間年中無休で営業するお店もあれば、残業してでも頼まれた仕事を達成しようとする会社の空気もあります。海外では、決して顧客を下に見ている訳ではなく、ビジネス上対等な相手という認識があるのです。
日本では他人への気遣いやマナーとして行っていることでも、海外ではマイナスに捉えられたりすることもあります。文化の違いに阻まれてビジネスが失敗することのないように、海外で働く際には現地の職場文化をまず理解するようにしましょう。
出典:
https://www.nissay.co.jp/news/2021/pdf/20211117.pdf
https://data.oecd.org/emp/hours-worked.htm
https://www.statista.com/statistics/1002964/average-full-time-annual-earnings-in-the-uk/
https://www.statista.com/statistics/1123481/japan-average-monthly-wages-among-full-time-workers/