女性のための健康経営はなぜ必要?課題と海外の取り組み事例
2022年の日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中116位で、依然として低い順位が続いています。また、経済協力開発機構(OECD)の統計では日本の男女間の賃金格差は加盟44カ国中ワースト4位となりました。
ジェンダーギャップ指数は様々な分野における男女格差を数値化して割り出されますが、経済分野の中に企業の管理職の男女比があります。日本政府は女性管理職の割合が30%になることを目指していますが、2022年現在の割合は平均9.4%と遠く及びません。低い数値ながらも実は過去最高値であるため、多くの企業が努力していることは分かります。この数値が今一つ伸び切らない原因として、女性特有の健康問題が注目され始めています。
今までの健康経営は女性向けでない?
健康経営といえば、メタボリック症候群対策を思い描く方は多いかもしれません。もちろんこの対策は社員を心筋梗塞や脳梗塞などのリスクから守るために重要ではありますが、女性のメタボリック症候群は20代にはほぼ存在しない、30代は男性の17分の1、40代は 4分の1以下、50代は3分の1以下、60代は2分の1以下だと言われています。女性従業員の人口は全体の半数近いため、多くの従業員がメタボリック症候群対策の対象外になります。
これに多くの企業が気づき始め、現在日本で最も関心の高い健康経営は女性特有の健康問題対策となりました。
なぜ健康経営は必要? 女性の健康問題で労働の生産性低下
女性特有の健康問題にはもちろん乳がんや子宮頸がんなども該当しますが、多くの女性が抱える健康問題はホルモンのバランスによるものです。男性の健康問題は年齢が高くなるにつれて増加するのに対し、女性特有の健康問題は年齢に関係なく続きます。
月経に関する症状で悩みを抱える女性は8割以上だと言われています。また、50代前後の女性のほとんどが更年期の体調不良に悩まされます。これらによって労働の生産性が低下すると考える女性は半数以上に上ります。健康に自信がないせいで、管理職に就くのを諦める女性は少なくありません。女性特有の月経随伴症状による労働損失を金額にすると、4,911億円に上ると試算もされています。
また、出産に関する問題もあります。管理職に就きたいと考える女性は適齢期に出産を諦めざるを得ない、反対に出産によって管理職を諦めざるを得ないという状況が続いています。それに加えて30代後半~40代の管理職候補の女性たちが、妊活を理由に退職するケースも少なくないようです。
女性の健康を考えた経営が出来ていない場合の経済的損失の合計は、年間6828億円と試算されています。健康経営は企業の利益にもつながっているのです。
女性のための健康経営‐課題&問題点‐
生理休暇を設けている企業は比較的多いにも関わらず、約2割程度しか利用されていません。生理休暇なんて言うと変な目で見らそう……など、何となく気が引けて申し出ることの出来ない女性が多いようです。この裏側には女性特有の健康問題に関するリテラシーの低さがあるように思われます。
リテラシーの低さは男性だけでなく、女性自身にもあります。たとえば、ヨーロッパやアメリカでは更年期障害を抱える女性の4割がHRT(ホルモン補充治療)を受けていますが、日本では2%未満です。治療方法があること自体を知らない女性や、治療に対する偏見を持つ女性も少なくないようです。
男女共に女性の健康問題に関するリテラシーを高めていくことが、今後の課題になりそうです。
海外(アメリカ・イギリス)の健康経営事例
アメリカでは企業がヘルスケアアプリを従業員に提供していることも珍しくありません。これによって、従業員の病欠の割合が減っていることも報告されています。
2036年には労働人口の76%をミレニアル世代が占めると言われていますが、この世代は福利厚生の中で、家族も含めたヘルスケアを最も重視する傾向があります。アプリを使った健康経営は、デジタルネイティブと呼ばれるミレニアル世代に響くに違いありません。
また、イギリスでは2016年に労働組合会議(TUC)が4000人を対象に、更年期に関する調査を実施しました。その結果、10人中9人が「キャリアに影響があった」と回答したため、企業向けに更年期についての正しい知識を得られるツールキットの提供が始まりました。
健康経営にはどんな取り組みが必要?
社員の健康対策にはコストがかかりますが、社員が健康を害した場合の損失が大きいことも確かです。管理職の女性を増やすためには、女性従業員の健康状態を企業が気遣うことが欠かせません。
産業医や産婦人科医などの専門家に女性社員が気軽に相談できる窓口の設置や、男女両方の社員に女性の健康に関する研修を導入するなど、様々な対策が必要です。また、テレワークや休暇の人員をカバーする体制を構築することも、問題解決の糸口になります。
女性が働きやすい職場を目指すことで、日本のジェンダーギャップは少しずつ縮まっていくのではないでしょうか。