オーバーツーリズム(観光公害)対策 海外&日本の成功例,事例

オーバーツーリズム対策

前回の記事ではオーバーツーリズムの事例や具体的に何が問題になっているかをご紹介しましたが、この記事では国内と海外のオーバーツーリズム対策成功例をご紹介していきます。

日本:世界遺産 白川郷のオーバーツーリズム対策事例

伝統的な茅葺屋根の生活や文化を持つ白川郷の集落は1995年にユネスコの世界遺産に登録され、それ以来多くの観光客が押し寄せるようになりました。住民が600人程度であるにも関わらず、年間累計観光客数は約180万人にも上ります。これによって地元の方が好きな時間に畑仕事に出られないなど、住民の生活を脅かす様々な弊害が発生しています。

しかしながら白川郷は日本で最初にオーバーツーリズムが起こった場所だと言われているだけあり、対策も一歩進んでいる印象です。2020年にはオランダのNGOグリーンディスティネーションに「世界の持続可能な観光地100選」に選出されました。その主な評価理由は2つあります。

1つ目は完全予約制の観光システムです。白川村では以前から冬のライトアップイベントの際に貸し切りバスを用意して、一部予約制を導入していました。それを2019年1月からはマイカーで訪れる個人客も含めて完全予約制に変更しました。まだ課題もあるようですが、地域住民や観光客の意見を積極的に取り入れながら柔軟に対策を講じています。

2つ目は火災への対策です。木造で茅葺の合掌造りは火災に弱いため、放水銃を使った防火訓練を村民総出で行っています。定期的な防火水源の点検や毎日4回の「火の用心」村回りも住民によって行われます。2019年には実際に火災が発生しましたが、消防団だけでなく一般の地域住民が自発的に放水銃で消火に参加し、1棟の焼失のみに被害を食い止めました。また、タバコの火も火災の原因になるため白川村とフィリップ モリス ジャパン社が提携し、集落内に火を使わない加熱式たばこ専用ブースを整備しています。

海外:イタリアのオーバー ツーリズム対策事例

ローマ

ローマ市では2019年7月に条例が改正され、歴史的建造物に座ることや飲食すること等が禁止となっています。具体的にはトレビの泉のへりに座ること、スペイン階段に座ってアイスクリーム食べることなどが取り締まられています。他にもキャスター付きスーツケースを転がすこと、上半身裸になることなど禁止事項が細かく定められ、違反した場合の罰金は最大400ユーロ(約4万7000円)です。

一見厳しすぎる対策に思えますが、イタリアには年間で国の人口を上回る6200万人の観光客が押し寄せ、都市部の家賃高騰や交通渋滞、騒音、ごみ問題など、地元の人の生活が脅かされています。また、重要な文化財の保護のためにも、厳しい条例で取り締まっていくしかないようです。

筆者が先日訪れたローマ近郊の村では観光客用と地元住民用の駐車場が分けられており、基本的に観光客は村内への車の乗り入れが禁止でした。チヴィタ・ディ・バニョレージョという村では入村料5ユーロを徴収していました。

ヴェネツィア

ヴェネツィアでは今年の1月から宿泊しない観光客に対して入域料を徴収しています。価格は変動制で夏のハイシーズンで10ユーロ(約1,365円)、冬は3ユーロ(約410円)程度となる見込みです。当然のことながら居住者、学生、通勤者は免除となり、ホテルに宿泊する観光客も別の形で観光税が徴収されるため、入域料は徴収されません。

またイタリア政府はオーバーツーリズムから生態系を保護するため、ベネチアの潟湖を国定公園に指定しています。

海外:スペインのオーバー ツーリズム対策事例

バルセロナ

バルセロナには年間約3200万人の観光客が訪れ、それは同市の人口160万人の約20倍に上ります。そこで市を挙げて観光客数を削減する対策に乗り出しています。

観光客の宿泊を目的としたマンションの固定資産税を引き上げ、新たな創設を禁止しました。B&Bへの規制も強化し、貸し出し可能な部屋数に制限をかけています。また2016年10月から1年間、歴史地区での新たな商業施設等の開設を禁止しているほか、2017年1月末には市議会で2019年以降新たなホテルの建設を禁止する法律も可決されました。

しかしながらホテル業界からは大ヒンシュクを買っており、フォーシーズンズのような大手がバルセロナから撤退しています。観光収入はバルセロナのGDPの14%を担い12万人の雇用にも繋がっているため、観光客数削減計画は賛否両論となっています。

他の対策としては2012年からホテルのランクによって変動する観光税を徴収しており、年間約8600万ユーロ(108億円)の税収を得ています。2015年からグエル公園の入場料として7ユーロの徴収も行っています。

マドリード

バルセロナの例を受けてマドリードでは観光客数を減らしながら、観光客1人当たりの消費額を増やす取り組みが行われています。

具体的な対策として民泊を規制していく方針はバルセロナと似ていますが、反対に高級ホテルの誘致を行っています。バルセロナから撤退したフォーシーズンズや、マンダリン・オリエンタルやオラヤングループなど、高級ホテル側もマドリードへの進出に積極的です。

海外:オランダのオーバー ツーリズム対策事例

アムステルダム

アムステルダム市は民泊の営業に年間60日の上限を設け、利用ゲストから観光税を徴収しています。税額は宿泊料金に対する割合ではなく、定額制に変更することも検討されています。これによって格安料金で部屋を貸すと宿泊施設側の収益が圧迫されるので、旅行者1人当たりの消費額が増加する見込みです。

また、市内に宿泊しない観光客が訪れることもあまり歓迎できないため、クルーズ船の寄港禁止も決定されました。環境団体T&Eが公表したレポートでは、2022年の米カーニバルが所有するクルーズ船63隻による硫黄酸化物排出量は、欧州で登録されている自動車2億9100万台の排出量よりも43%多かったと報告されています。したがってクルーズ船の寄港禁止は環境汚染対策にもなります。

クルーズ船の寄港に関してはスペインのバルセロナやイタリアのベネチア、アイルランドのダブリン、ギリシャのサントリーニ島、フランス領ポリネシアなどでも禁止されています。

オーバーツーリズム対策の正解は世界のどこにもない

オーバーツーリズムは世界のあらゆる観光地でここ数年になって問題視され始めたため、まだどの地域もこれが正解だと言える対策は見つかっていないのが現状です。しかし全体の傾向としては観光税や入場料を徴収する、予約制を導入するなどの対策が多い印象です。方針としては観光客数を減らして1人当たりの消費額を増やすというものが多いようです。

様々な観光地で交流し合ったり、世界の観光地で上手くいっている対策を取り入れたりすることで、オーバーツーリズムの問題が少しずつ解決へ向かうのではないでしょうか。

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