オーバーツーリズム(観光公害)とは?日本国内の事例と課題
訪日外国人観光客数がコロナ以前の水準に回復しつつある現状は、観光地にとっては喜ばしいことです。しかし、観光地の中には、オーバーツーリズムによる被害に悩む地元住民を抱えるところもあります。
2018年頃から様々な対策が行われてきていますが、インバウンド需要の回復と同時に、観光客の増加による混雑やマナー違反問題への関心も再び高まってきています。
この記事では、オーバーツーリズムとは何か?を日本国内の事例を挙げて解説します。
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インバウンド消費が及ぼす影響②訪日外国人の推移と人数ランキング2023
オーバーツーリズムとは?
オーバーツーリズムの意味 観光公害との違い
観光庁発行「平成30年度版 観光白書」では、オーバーツーリズムについて次のように定義しています。
特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、市民生活や自然環境、景観等に対する負の影響を受忍できない程度にもたらしたり、旅行者にとっても満足度を大幅に低下させたりするような観光の状況は、最近では「オーバーツーリズム(overtourism)」と呼ばれるようになっている。
これは、国連世界観光機関(UNWTO:World Tourism Organization)が 、2018年9月に発行したリーフレットで引用した以下の定義を受けて定められたとされています。
観光地やその観光地に暮らす住民の生活の質、及び/或いは訪れる旅行者の体験の質に対して、観光が過度に与えるネガティブな影響
ネガティブな影響とは、観光客の増加による交通機関の混雑や交通渋滞、騒音、ごみ問題、観光資源の劣化、家賃・物価の高騰などが挙げられます。
日本では、「観光公害」がオーバーツーリズムの訳として使われることが多いようです。また、観光公害の多くは観光客の増加によって引き起こされるものであることからも、「オーバーツーリズム」と「観光公害」はほぼ同じ意味と考えていいでしょう。
オーバーツーリズム対策 観光庁の取り組み
過去記事「インバウンド消費が及ぼす影響②訪日外国人の推移と人数ランキング2023」のグラフからも分かるように、2018年頃から訪日外国人観光客が急増しています。
それを受け、観光庁は2018年6月に「増加する観光客のニーズと観光地の地域住民の生活環境の調和を図り、両者の共存・共生に関する対応策のあり方を総合的に検討・推進する」ことを目的に「持続可能な観光推進本部」を設置。代表的な観光地において関係自治体と協力し、混雑やマナー違反対策などに関するモデル事業などを実施し、観光庁で収集した国内外の先行事例とともに全国展開していくなどの取り組みを行ってきました。
その後、コロナ過で一時遠ざかっていたオーバーツーリズム問題が再度懸念されたことで、今年9月に関係省庁で構成する「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係府省庁対策会議」を2回開催し、地域関係者からのヒアリングや施策の検討などを行っています。
オーバーツーリズム(観光公害) 日本国内3つの事例
オーバーツーリズム事例① 京都のバス問題
外国人観光客に大人気の京都では、観光客がバス停に長蛇の列を作り、地元の人々がバスに乗り切れない状況が多発。その対策として、京都市は、今年9月末に「バス1日券」の販売を廃止し、パスの利用も2024年3月末で停止する方針であることを発表しました。
1995年に導入されたこの乗車券は、都心部のバスが700円(子ども350円)で乗り放題になるため、観光客から人気がありました。
しかし、バスのみに観光客が集中することを避けるために、1,100円(子ども550円)で地下鉄とバスが乗り放題になる「地下鉄・バス1日券」への利用の切り替えを進めています。この券は元々販売されているもので、地下鉄の利用を促進することで混雑が緩和されることが期待されます。
また、バスの混雑問題だけでなく、串系の食べ物の食べ歩きやポイ捨てなども問題になっています。
コロナ以前からオーバーツーリズムの経験がある同市では、コロナ前の観光に戻さないよう、観光資源を護り、市民と共生する持続可能な観光振興に力を注いでいます。
オーバーツーリズム事例② 宮古島の交通混雑や海の環境悪化問題
コロナ以前の2015年度以降に観光客数が急増し、ホテルや二次交通の受入態勢が追いつかない事態が発生。
この増加は沖縄県経済にプラスの影響を与えた一方で、レンタカー増加による交通混雑や事故の増加、シュノーケリング利用などの増加による海の環境悪化、バス・タクシーの二次交通不足や商業施設の混雑、ごみ問題など、様々な問題を抱えていることを浮き彫りにしました。
宮古島市では、2019年、今後10年間で年間観光客数の目標を200万人に設定しています。
しかし、オーバーツーリズムとの指摘もあり、市は、まずは市民生活が快適・安心・安全であることを確保するために、住民への水道水・食糧の安定供給や観光客による交通渋滞の圧迫限度の確認などを精査しながら、受け入れ能力を判断するとしています。
オーバーツーリズム事例③ 鎌倉の「スラムダンク」聖地巡礼問題
人口約17万人の鎌倉市の昨年の延入込観光客数は、約1196万人でした。この驚くべき数字は、バスケットボール漫画「スラムダンク」の海外における人気が影響しているようです。
当漫画原作の映画「THE FIRST SLAM DUNK」が昨年末公開され、そのヒットとコロナ規制の緩和が重なったのです。
所縁の地、江ノ電の踏切周辺は撮影目的の外国人観光客らが常にいるスポットとなり、迷惑行為が相次いでいます。
車道に飛び出しての写真撮影やゴミの放置、騒音などのトラブルが増えて警察に通報が寄せられ、近隣住民からは、土日や大型連休に限っている警備員の配置を平日にも実施するよう求める声が上がっているようです。
オーバーツーリズム(観光公害)対策の課題は共生
このように事例を見てみると、ここ数年の観光客数の急激な増加は、経済回復という利点だけでなく、オーバーツーリズム問題を再認識する機会をもたらしたことが分かります。持続可能な観光大国となるためには、観光客のニーズと地域住民の生活環境、どちらにも配慮したインバウンド事業を行っていく必要があるのです。
次回の記事「オーバーツーリズム(観光公害)対策 世界&日本の成功例」では、対策により焦点を当てたオーバーツーリズムの国内・海外事例を挙げています。
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