なぜミニマリストになれないのか?を本質的に考える
以前の記事「ミニマリストvsマキシマリスト/メリット&デメリットを紹介」では、約7割の人が「自分はミニマリストではないが、なりたい」と考えていることをお伝えしました。これだけ多くの人たちが「なりたい」のに「なれない」ということは、ミニマリストになるのは容易ではないことが想像できます。
そこでこの記事ではミニマリストの本質的な意味に立ち返って、ミニマリストになる方法を考察します。
ミニマリストとは?その意味
ミニマリストとは持ち物をできるだけ減らし、必要最小限の物だけで暮らす人たちのことです。ミニマリストの語源は「最小限の」を意味する英語のミニマル(minimal)で、ミニマリストという言葉は2010年前後に海外で使用され始めた造語です。
近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』が刊行されたのも2010年で、これは偶然というより、同時期に国内外で同じ流れがあったと考える方が自然でしょう。ちなみに海外で近藤麻理恵さんブームが訪れたのは2015年で、刊行から5年経ってからのことでした。
少ない物だけで暮らすことは結果的に環境にも優しいので、昨今のSDGsにも繋がり、それが「ミニマリストになりたい」と考える人の増加に拍車をかけているのかもしれません。
ミニマリストの哲学は建築が発祥
ミニマリストの哲学といえば、必要最低限の物だけを持つことでかえって豊かに生きられるという「レス・イズ・モア(less is more)」でしょう。この名言を残した人物は、1886年にドイツのアーヘンで生まれた建築家ミース・ファン・デル・ローエで、ミニマル・デザイン提唱したことで知られています。
ミニマル・デザインとは、究極に無駄を省くことで合理的な機能美を追求することを指します。ミース・ファン・デル・ローエが登場する以前のヨーロッパでは、熟練の職人による華美な装飾がもてはやされたため、彼の登場によってこれまでの美の概念が覆されたといっても良いでしょう。
ミース・ファン・デル・ローエがドイツで建築事務所を開いたのは1912年、ドイツ工作連盟の副会長に任命されたのは1926年であったため、ミニマリストという言葉が作られるよりもずっと以前から、ミニマリストの哲学は存在していたようです。
ミニマリストが注目される理由
かなり前から存在していたミニマリスト的な考え方ですが、2010年頃になって再度注目され始めたのはなぜでしょうか。
それにはどうやら、複合的な要因があるようです。リーマンショックなどを背景に所得が減り「お金がなくても幸福に暮らしたい」と考える人が増えたこと、2000年代に台頭したファストファッションの大量生産&消費に疲れ始めたこと、情報過多によって物を手に入れても心が満たされないと感じる人が増えたこと、加えて、環境問題への関心の高まりなどが挙げられます。
異常なミニマリストにならないために
ミニマリストを目指す場合、最初にすることはやはり断捨離ではないでしょうか。しかし、どうやらここに落とし穴があるようです。
断捨離を始めてしばらくすると、捨てること自体に快感を覚えるようになってしまうことも多いのではないでしょうか。そうなると徐々に物があることに罪悪感を持ち始め、捨てなくてはならないという強迫観念に駆らるようになります。それによって本来ならば必要な物も捨ててしまい、結局買わざるを得なくなり、さらに罪悪感に駆られるという負のループが始まります。
これでは自分ではミニマリストになったつもりなのに、他人からは異常に見えてしまうこともあるでしょう。そうならないためには、正しいミニマリストとは何かを知っておく必要があります。
正しいミニマリストのなり方、哲学
ミニマリストになる目的は物を減らすことではなく、それによって内面を豊かにして、幸福度を高めることです。そのためには他人の基準ではなく、自分の基準で必要な物とそうでない物を見極めることが重要です。
断捨離をする際にはつい先に「いらない物」を選びがちですが、近藤麻理恵さんは著書の中で先に「必要な物」を選ぶことを勧めています。自分の理想の暮らしや理想の部屋を先にイメージして、そこにあったら良いなと思う物を選択して残すことが大切なのです。少ない持ち物でも自分にとって大切なものが手元に残っているなら、雑多な物に囲まれて暮らすよりも幸福感を得られるのだそうです。ミニマリストの哲学に「機能美」があるにも関わらず、物が少なすぎて生活の場として機能しない家になってしまえば、そこに矛盾が生じます。
しかしながら、必要な物を厳選していく作業に楽しさや幸福感を見いだせないのなら、無理にミニマリストになる必要はないのかもしれません。ミニマリストになる目的は幸福度を高めることなので、物を減らしても幸福になれないのなら、自分はミニマリストにに向いていないのだと、きっぱり諦めることも悪くありません。
ミニマリストの幸福度
実はミニマリストの幸福度は、そうでない人の幸福度と比較してさほど変わらないというデータがあります。人の幸福度は所得に比例しているという、身も蓋もないデータもありました。所得が増えて幸福を感じる理由の1つには、好きな物が買えて物欲が満たされることが挙げられます。
したがって、自分がミニマリストに向いていないかもと感じたら、「ミニマリストvsマキシマリスト/メリット&デメリットを紹介」で解説したような、好きなものに囲まれて暮らすマキシマリストになるのも悪くありません。或いは、どちらにもならないという選択肢だってあります。幸福に対する価値観は人によって異なっても良いのではないでしょうか。
もしかしたら本質的にミニマリストに向いているのは、スティーブ・ジョブズや禅の精神を極めた、限られた人だけなのかもしれません。だからこそ憧れる人が多いのではないでしょうか。