ドイツの働き方は効率重視?デメリット&日本の働き方との違い
IMF(国際通貨基金)が2023年10月に発表した「世界の名目GDP(国内総生産)ランキング」で、これまで4位だったドイツが日本を抜いて3位になりました。2024年4月に発表されたランキングでも3位がドイツ(4兆5,911億ドル / 前年比+3.0%)、4位が日本(4兆1,104億5,200万ドル / 前年比-2.4%)で、ドイツと日本の名目GDPの差はさらに広がりました。
ドイツは世界の中でも労働時間が短いことで有名ですが、GDPがこれほど高いのはなぜでしょうか。ドイツの人々はどのような働き方をしているのでしょうか。これまでのイギリス、アメリカの働き方に続き、今回はドイツの働き方をご紹介します。
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ドイツの働き方は効率がいい?日本との違いは圧倒的に短い労働時間
OECD(経済協力開発機構)によると、2023年の「ドイツの労働者1人あたりの年間労働時間」は1,343時間で、日本の1,611時間と比べると268時間も短いことが分かります。なぜ、ドイツでは長時間働かなくていいのでしょうか?
ドイツでは、1日の労働時間が8時間までと「労働時間法」で定められており(※)、いかなる理由があろうと、1日につき10時間を超える労働が禁止されているのです。それに違反した雇用主は、最高1万5000ユーロ(約234万円)の罰金が科され、企業イメージが悪くなります。また、日曜日・祭日の労働も原則禁止されています。
自動車や化学薬品などの製造業に優れており、日本同様ものづくりが盛んな経済大国であるドイツ。OECD加盟国の中で最も短い労働時間でも生産性が高いのは、法律で労働者が護られリフレッシュの期間が充分に与えられているために、質の良い労働が実現できるからなのでしょう。
※ 1日の労働時間を10時間まで延長できるが、6カ月または24週の期間で平均が1日8時間になるようにしなければならない。つまり、2時間残業した日の翌日はその分2時間早く帰るというような働き方が認められている(労働時間貯蓄制度)。限定的に1日10時間を超える労働時間も許容されている。
ドイツの働き方の特徴一覧 日本との違い
ドイツの働き方で、他国が参考にしたい点は労働時間が短く残業がないことだけではありません。幾つかの特徴を具体的に見てみましょう。
① 有給休暇が多く取得率が高い
米旅行予約サイトExpedia(エクスペディア)の「2023年有給休暇の国際比較調査」によると、日本で働く人の有給休暇の支給日数は平均19日間、そのうち平均12日間の有給休暇を取得しており、取得率は63%と世界11地域の中で最下位でした。
一方、ドイツは平均31日支給され、平均27日取得、取得率は93%と、イギリスと並んで4位でした。
ドイツでは年間最低でも24日間の有給休暇が義務付けられていますが、このデータを見ると30日前後支給する雇用主が多いようです。
また、労働者全員の権利意識が強いため、躊躇わずに有休を申請できる雰囲気がある点も日本との違いです。
② 病欠に有給休暇は使わない
ドイツでは、年間最長6週間の病気休暇を取得することができ、休暇中の給与は雇用主が全額支払います。6週間以上休む必要がある場合は、法定健康保険(ドイツにおける社会保険)で給与の7%ほどが補填される仕組みになっています。さらに、連続2日までは医師の診断書なしで会社を休むことができるそうです。
日本では、病気などで働けなくなった日から起算して連続3日を経過した日から仕事に就けない間、「傷病手当」が支給されます。しかし、2日以内に治る風邪などでの休みはカウントされないということになり、有休を使用せざるを得ない人もいます。これでは、リフレッシュのための有休になりません。
1日の支給額は、「支給開始日以前の12ヵ月の各月の標準報酬月額」を30日で割った額の3分の2に相当する金額となり、通常の半額くらいしかもらえません。
③ 子どもが病気の際は「看護休暇制度」を利用
ドイツには、子どもの看病の際に利用できる「看護休暇制度」があります。1人の子(12歳未満)につき年間15日まで取得でき、手取り給与の90%に相当する額が児童傷病手当金として支給されます。
日本でも2021年から、全ての労働者が時間単位で「⼦の看護休暇」を取得できるようになりました。労働者1人につき5日(子が2人以上の場合は10日)の取得が可能です。
しかし、休暇中の賃金に関する法律上の定めがないため、6割以上の雇用主が無給にしています。
④ 仕事内容を社員全員で共有し、休みやすくする ― “お客様は神様”ではない
社内では誰かが有休などを取得する時に備え、代理で対応できるように全員で仕事を共有しています。仕事が回らないから休めないなんてことはありません。
そうは言っても、担当者でなければだめな時も出てくるでしょう。しかし、その場合でも、顧客が担当者不在への理解を示してくれるため問題はありません。サービス提供者と顧客の地位に日本ほど格差がないのです。自分が休む権利を主張する分、他人の欠勤に対しても寛容なのがドイツの人々です。
⑤ 転職が普通
ドイツには、新卒採用や終身雇用という制度がないため、雇用主は欠員が出たら求人を出します。労働者は、キャリアアップのために2~3年で転職することが多く、同じ分野でより条件の良い会社があればあっさりそちらに移ります。職を転々としているからといって、それがマイナスに捉えられることはないようです。
ドイツの働き方にデメリットはある?
このように、日本での就労経験がある人はドイツの職場環境や制度を羨ましく思うことでしょう。そんなドイツの働き方に、果たしてデメリットはあるのでしょうか?
労働者側から見た働き方には、大多数の人がデメリットはないと答えるのではないでしょうか。しかし、雇用主や顧客の立場からすると違ってきます。
例えば、有休や病欠で従業員が休むたびに代理を立てなければならない手間や、出勤しない従業員に払わなければならない給与などの人件費は、雇用主に負担をかけます。
顧客は、担当者が休暇の間待たされたり、依頼したことがなかなか進まないことでストレスを抱えたりすることもあるでしょう。
逆に、日本では労働者が休みづらい分、施設やお店が年中無休だったり、急ぎの案件があれば担当者が休日出勤してくれたりなど、顧客中心主義なところがあります。顧客から見ると有り難い働き方です。また、営業日数が多い分、利益も上がる可能性を考えると、雇用主にもメリットがあると言えるでしょう。
ドイツの働き方が成り立つのは
ドイツで理想的な職場環境が実現しているのは、決して法律で強制されているからだけではありません。
権利意識の高さや効率重視の国民性、残業しない方が評価される企業文化、時短と休暇に関する社会的合意の存在(サービス水準の高さを求めない顧客)、このような条件が揃ったからこそ実現できたものと考えられます。
ドイツの働き方を日本で実現するには、法律で権利を与えるだけでなく、それを行使しやすい環境にする必要があります。
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出典:
https://www.expedia.co.jp/stories/vacation-deprivation2023/
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https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000582033.pdf