世界で活躍の舞台美術家・幹子S.マックアダムス『Clueless』ロンドン公演へ

ニューヨークを拠点に活躍する舞台美術家、幹子S.マックアダムスさん。舞台の裏方として日本でキャリアをスタートさせた彼女は、これまでにアソシエイト・シーニックデザイナーとしてブロードウェイやウエストエンドで数々の作品を手がけ、現在は自身でデザインを手がける舞台美術家として注目を集めています。最新作はロンドンで上演されているミュージカル『Clueless』。そのキャリアの軌跡と、今回の作品に込められた想いをご紹介します。

16歳で見つけた舞台裏の魅力

神戸で生まれ育った幹子さんは、幼い頃から宝塚歌劇団に親しんでいました。特に、舞台セットや衣装の豪華さに魅了され、裏方の仕事に関心を抱くようになります。16歳のとき、兵庫県川西市文化会館でフォロースポットの操作や舞台セットの調整を経験し、次第に舞台美術の世界に足を踏み入れていきました。

「小さい時にバレエの発表会に出してもらった時、踊りよりも舞台そのもののエネルギーに引き込まれました。『この世界に入りたい』と強く思いました。でも、私は舞台に立つのではなく、舞台を作る裏方になりたかったんです。」

彼女の運命を変えたのは、バレエの先生の紹介で訪れた地方劇場でした。そこで出会った舞台監督・石本氏が、彼女に舞台の裏方の仕事の基礎を教えてくれました。彼は『君は絵を描けるか?描けなければ舞台美術はできないよ』と言い、舞台裏の仕事を私に見せられるだけ見せてくれました。こうして、週末ごとに劇場へ通い、フォロースポットを操作しながら、舞台の仕事を学ぶ日々が始まりました。

幹子S.マックアダムスさん

日本での限界、そしてNYへ

舞台美術を本格的に学びたいと考えた幹子さんは、東京への進学を目指すも、希望していた学校には合格できませんでした。それでも舞台美術を諦めなかった彼女は、海外留学を決意します。

そんなとき、彼女を導いたのが石本氏でした。「アメリカにはね、ブロードウェイというのがニューヨークにあるんだ。舞台芸術のメッカだよ。舞台美術を学べる学校もいっぱいあるらしい。」と教えられ、彼女はついにアメリカへ渡ります。

シアトルにいる親戚を頼りに渡米した彼女は、英語の壁に直面しながらも、コーニッシュ・カレッジ・オブ・ジ・アーツに何度も直談判し、最終的に入学を勝ち取ります。「私はここで学ぶ必要があるんです」と、教授に熱意を伝え続けました。

そこで彼女は、舞台美術の技術だけでなく、人とのつながりを築くことの大切さも学んでいきました。彼女の情熱と努力は、教授やクラスメートたちを動かし、彼らは彼女が英語の脚本を読めるように手助けをしてくれたといいます。

イェール大学、そしてブロードウェイへ

さらに学びを深めるため、幹子さんはイェール大学大学院への進学を決意します。そこでは舞台美術の巨匠ミン・チョ・リーの指導を受け、技術と理論の両方を徹底的に学びました。「舞台美術家として活躍するには、この道しかない」と覚悟を決めての挑戦でした。

イェール大学卒業後、彼女は模型制作や図面を引くアシスタントとしてとしてキャリアをスタートさせます。初めて関わったブロードウェー作品がトニー賞最優秀美術賞を取り、後にその時の美術家マイケル・ヨーガンの、アソシエイト・シーニックデザイナーとなり、『マイ・フェア・レディ』『屋根の上のヴァイオリン弾き』『王様と私』など、数々の名作の舞台セットのロジスティクスやデザインに携わる傍ら、自身の舞台美術も手がけ続けました。

Emma Flynn演じる主人公Cher

『Clueless』ロンドン公演 —90年代の世界観を再現

そして今回、幹子さんが舞台美術を担当しているのが、ロンドンで上演されるミュージカル『Clueless』です。1995年に公開された映画をもとにした本作は、90年代のポップカルチャーとファッションを詰め込んだ青春ストーリー。その独特の世界観を舞台上に作るため、セットや装飾、ロケーションの細部に至るまでを研究しました。色味の微妙なニュアンスも彼女のこだわりの1つです。

「脚本家のエイミーとも密に話し合い、彼女の意識を尊重しながらデザインしました。例えば、映画の学校のシーンで使われていた壁の青を、そのまま舞台セットに取り入れています。」

しかし、制作にあたって最大の課題となったのは、劇場のステージの狭さでした。限られたスペースの中でスムーズな転換ができるデザインを考案する必要がありました。スタッフと細かく調整を重ねながら、機能性と流動性を兼ね備えたステージを作り上げました。

日本の観客へ —ロンドンで『Clueless』を楽しもう!

『Clueless』ロンドン公演の観客の反応は、予想以上に熱狂的でした。観客の中には、映画のキャラクターのファッションを再現して劇場に訪れる人も多く、90年代カルチャーへの愛に溢れていました。

「KTの音楽とともに、観客はまさに90年代の世界に浸っていました。ロンドンのお客様のエネルギーは素晴らしいです!」と幹子さんは語ります。

 

幹子S.マックアダムスさんが手がけた『Clueless』の舞台セットは、彼女のこれまでの経験と情熱が詰め込まれた作品です。弊社スタッフも拝見しましたが、とてもポジティブで前向きになれるような舞台でした。少しキュンとした気持ちとともに、元気もたくさん頂くことができました。

日本の皆さんにも、ぜひロンドンでこの舞台を体験して頂きたいです。

『Clueless』は現在ロンドンで上演中です。90年代のノスタルジアを楽しみながら、世界で活躍する日本人舞台美術家の作品を堪能できる絶好の機会です。ロンドンを訪れる予定のある方は、ぜひ劇場へも足を運んでみてください!

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