日本と海外子育ての違い②子育てのための海外移住先ランキング&教育制度
近年ブームになりつつある子育てのための海外移住、すなわち“教育移住”。実際、コロナ禍でお金の使いどころがなかった日本の富裕層が海外移住に投資しはじめるケースは多く、子どもを海外で育てたいという教育目的が理由で移住する人が大半を占めているとも言われています。
以前の記事「日本と海外子育ての違い①イギリスの保育園の特徴 費用 補助金は?」では、イギリスの保育園事情について述べ、子育てしやすいイメージのある国でも、そう感じない部分がある事実をお伝えしました。
今回は、教育移住に良さそうな国を、世界ランキングなどのデータや国の政策などから考えてみたいと思います。
子育て世代の“海外移住先ランキング”は今のところ存在しないようなので、「子育てしやすい国ランキング」や「在留邦人数」などを基に数ヶ国をピックアップし、子育てしやすいと思われる理由を調査しました。
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「子育てしやすい国ランキング&在留邦人数」に見る 子育てのための海外移住先候補
子育てしやすい国ランキング上位は北欧
U.S. Newsの「2023年子育てに最適な国ランキング(Best Countries for Raising Kids)」によると、1位スウェーデン、2位ノルウェー、3位フィンランド、4位デンマーク、5位オランダ、6位スイス、7位カナダ、8位オーストラリア、9位ニュージーランド、10位オーストリア……という順でした。
このランキングは、世界の調査対象者17,000人以上に、特定の8つの属性に関してどのように国を認識しているか回答してもらって作成したものです。特定の属性とは、「人権への配慮」「家族連れへの適性」「男女平等」「幸福」「収入の平等」「安全性」「発達した公教育」「公衆衛生」の8つです。
ランキングは87位まで出されており、上位は北欧諸国が独占、前半にオセアニアとヨーロッパ、後半にアフリカと中東の国々が偏っていました。経済協力開発機構によると、スウェーデンやノルウェーなどの北欧諸国は、国内総生産の1%以上を幼児教育と保育に費やしていることが分かっており、その点がランキングに反映したと考えられます。
「日本人の海外移住先ランキング」上位に含まれる子育てしやすい国は?
外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると、2023年10月1日現在で在留邦人の割合が多い国上位10ヶ国は以下であることが分かっています。これら10ヶ国で海外在留邦人全体の77%を占めています。
ただし、このデータは、子育てのために移住して暮らしている日本人に限ったものではありません。恐らく、アメリカや中国は就労や留学目的で住んでいる場合も多いと思われます。
しかし、日本人が多く住んでいるということは、日本人コミュニティや日系企業、日系医療機関、日本食材を扱う小売店などがその分多く存在しており、生活基盤を整えやすいことを意味します。母国語を話す人が多いということでもあるので、自分と同じような境遇の人を見つけて情報交換ができる可能性がある点でも安心です。
在留邦人の多い国は、子連れで暮らすのにハードルが高くない国と言えるのではないでしょうか。
在留邦人の割合に加え、各国が子育てしやすい国ランキングでは何位だったかを併記してみると、カナダとオーストラリアは10位以内にランクインしていました。
在留邦人が多く子育てがしやすい国、さらに英語圏であるということで、教育移住先候補として良さそうです。
日本と海外における子育ての違い〈4ヶ国の事例〉
以上のデータを基に、日本人が教育移住するのに良さそうな国を4ヶ国選び、各国の子育てしやすいとされる日本とは違う政策を挙げてみました。(ちなみに、日本は子育てしやすい国20位にランクインしています)。
スウェーデン | 大学までの学費無償化 & 寛容な育休制度
子育てしやすい国ランキングで1位になったスウェーデンは、高い教育水準と社会福祉の充実で国民の幸福度が高く、環境に配慮したSDGs達成度ランキングでも上位と、様々な分野において日本より進んでいる印象の強い国です。
教育面では、国が率先して生涯を通した学びの場を提供することに力を入れているため、義務教育の基礎学校(9年)だけでなく、高校から大学の授業料も無償化されています。
就学前教育は無料ではありませんが、毎月最大約15,000円(家庭の収入によって異なる)なので日本より安いくらいです。年齢、人種、障害の有無に関らず、あらゆる子どもが一緒に過ごす「インクルーシブ教育」で1歳から民主主義の基礎や人権、平等などを学ぶことができるのもスウェーデンならではの特徴です。
また、育児に関する制度を見てみると、育児休暇は480日(両親ともにいる家庭では片親につき240日)で働いていたときの賃金の80%が給付され、児童手当は毎月約17,600円支給されることになっています。
オランダ | 子どもの幸福度No.1 & 教育手法の選択肢が多い
ユニセフの「先進国における子どもの幸福度ランキング2020年版」(最新)において1位のオランダ。このランキングは、経済・社会・環境状況や教育・健康などに関する政策、資源、子どもを取り巻く人間環境・ネットワークなどのデータを基に、「精神的幸福度(生活満足度・自殺率)」「身体的健康(子どもの死亡率・先進国における栄養不良を表す肥満率)」「スキル(学力・社会的スキル)」の3つの側面から決定されたものです。これらの指標が総合的に1位という点は、教育移住先として考えるのに十分魅力的ではないでしょうか。
オランダの義務教育は5-18歳までで、私立も含めて授業料が無償化されています。学校が主体的に教育手法を決めることができるため、シュタイナー教育、モンテッソーリ教育、フレネ教育、イエナプランなど、様々な教育理念を掲げる学校が共存しており、教育方法の選択肢が多い点が最大の特徴です。全体的には、子どもの自由や主体性を重視した教育に重点が置かれている印象です。
子育て支援面では、オランダで雇用契約を結んでいる親は、最長26週間の育児休暇取得、父親またはパートナーの最大6週間の育児休暇取得(子どもが生まれてから6か月以内に取得する必要がある)が保障されています。
また、8歳未満の子どもを持つ家庭に、4半期毎に約48,000円(年齢とともに上昇)の児童手当が支給されます。
カナダ | 高校までの学費無償化 & 保育費用の減額制度を開始
カナダの教育制度は各州が統括しており、公立の場合は高校までが義務教育で教育費は州が全額負担してくれます。就学前教育は有料ですが、1日約1,000円のところから毎月約15万円のところまで、州によって費用が大幅に違ってきます。そのため、高額なところへはパートタイムで通わせている家庭が多いようです。
1日約1,000円というのは、2021年に、政府が「カナダ全土の保育施設(デイケア)の料金を5年以内に1日当たり平均1,000円程度にする」という目標を掲げたことが影響しており、今後大幅に減額する保育施設がもっと増えてくることが予想されます。
児童手当は、家庭の収入に応じて、6歳未満の子ども1人につき年間最大約80万円、6歳から18歳未満の子ども1人につき年間最大 約70万円を受給することができます。
カナダは多文化主義を重視する社会のため、外国人でも住みやすく、子どものうちから違いを尊重し合って共存するのが当たり前だという感覚を身に付けられる点も移住で得られるメリットとなるでしょう。
オーストラリア | フレキシブルな育児休暇 & 子育てに理想的な自然環境
オーストラリアの義務教育は、日本で言う保育園年長から中学4年生までの11年間で、この期間は公立の場合は授業料が無料。就学前教育はこれまでの国と同様に有料で、保育施設の費用は1日当たりいくらで計算されます。1日約15,000-2万円と高額で、システムはイギリスと類似しています。
オーストラリアの教育では、教師は生徒が自分で考えて学ぶことを促す“ファシリテイター”という存在であるため、子どもたちは自分なりに考えて解決する力や自立心を育むことができます。小学校低学年からグループディスカッションやプレゼンテーションなどの授業形態が取り入れられているのも特徴です。
次に、子育て支援について見てみましょう。
国民健康保険制度加入者の場合、育児休暇中の18週間(90日)に1日約1,500円(前年の年収が約1,500万円以下の場合)支給されます。2020年からは、18週間を2回に分け、2年以内であればいつでも申請することが可能になったため、フレキシブルに育児休暇を取ることができるようになりました。父親またはパートナーに対する2週間約15万円のサポートもあります。
他には、家族税給付金、祖父母が子どもの面倒をみることが65%以上の場合に受給できるチャイルドケアのサポート費用などがあります(年金など他の助成金を受給していない場合)。
さらに、オーストラリアには美しいビーチや国立公園などがあり、温暖な気候であることから、自然の中でアウトドア活動を楽しむことが可能です。温暖な気候の地域で暮らす人々は社会性や安定性、自己成長、柔軟性などが高くなる傾向にあるという研究結果もあります。このような点も、子育て世代に人気の移住先である所以でしょう。
※ 各国の支援や制度は、国が定める対象者{永住権や市民権を取得した者、指定の国籍を有する者(EU加盟国など)}にのみ有効です。
海外子育てのメリット | バイリンガル教育以外には?
以上のように、海外の子育てには子どもをバイリンガルに育てるだけではないメリットがたくさんあります。
例えば、日本で受けられる以上の子育て支援や学費の無償化によって、子育てと仕事の両立ができたり、経済的に安定した生活を送ったりすることができます(永住権取得者、あるいは受給資格のあるビザステータス保持者の場合)。
また、日本とは違う文化が複数共生する環境からは互いの違いを尊重し合う思いやり、他者と比較せず個人を重視する教育においては自己肯定感、そして自分のペースで考えて学ぶ力を子どもに与えることも可能です。
“異次元の少子化対策”が期待されているとは言え、日本の子育て支援や幼児教育は海外の先進国と比べると現時点で遅れをとっていることは確かです。6歳までの幼児教育が重要視される今、その施行を待たずして海外へ教育移住したいと思っている親は多いことでしょう。
留学エージェントなどにおいては、家族ぐるみの海外移住をサポートするセクションの設置に事業拡大のチャンスがあるかもしれません。
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