ハラスメント対策が義務化?① 海外の対策事例【職場編】

我が国では、職場におけるセクシュアルハラスメントやマタニティハラスメント防止対策が事業主に義務付けられたのは、1900年代の終わりから2000年代初頭にかけてでした。

そして、漸く3年前に、パワーハラスメント防止対策の義務がすべての企業に適用されました。

これにより、働きやすくなったと感じている人はいるのでしょうか?パワハラ防止対策の義務化について改めてまとめるとともに、海外の職場で行われているハラスメント対策事例を参考までにご紹介したいと思います。

 

パワーハラスメント対策が義務化

パワハラ防止対策を怠った場合の罰則は?

セクハラ防止対策は「改正男女雇用機会均等法(1999年施行)」、マタハラ防止対策は「改正男女雇用機会均等法・育児・介護休業法(2007年施行)」によって事業主に義務付けられていますが、パワハラ防止対策の場合は「改正労働施策総合推進法」によって事業主に義務付けられています。2020年の時点では大企業のみでしたが、2022年4月1日からは中小企業にも適用されることとなりました。

具体的な対策としては「ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発」「相談窓口の設置」「被害者に対する適正な配慮の措置の実施」「行為者に対する適正な措置の実施」「再発防止措置の実施」などが挙げられます。

では、パワハラ防止措置を怠った企業はどうなるのでしょうか?

現時点では罰則規定は設けられていません。ただし、問題があるようなら厚生労働省より助言、指導、勧告が入り、勧告を受けたにも関わらず従わなかった場合は企業名が公表されます。

さらに、厚生労働省はパワハラに対する措置と実施状況について企業に報告を求めることが可能されており、報告をしなかったり虚偽の報告をしたりした場合は、20万円以下の過料が科されることになっています。

ハラスメント防止対策を義務付ける法律だけでは不十分?

2019年に採択された国際労働機関(ILO)における「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約(第190号)」では、ハラスメントを

身体的、精神的、性的又は経済的害悪を引き起こすことを目的とした、又は結果を招く若しくはその可能性のある一定の許容できない行為及び慣行またはその脅威であり、ジェンダーに基づく暴力及びハラスメントを含むもの

と定義し、法的に禁止することを求めています。

これにはILO加盟国187ヶ国中6ヶ国(ウルグアイ、フィジー、ナミビア、アルゼンチン、ソマリア、エクアドル)が批准していますが、先進国は含まれていません。

しかし、2020年に欧州委員会がEU加盟国に対し、当条約を国レベルで批准するプロセスを進めるべきとする理事会決定の提案を採択しており、ハラスメント根絶に向けて先進国も含めた欧州の国々が動き出している最中と思われます。

欧州の先進国は、日本同様、ハラスメントを直接的に法律で禁止していませんが、様々なハラスメント防止対策や取り組みを行っています。どのようなハラスメント防止対策があるのか、数ヶ国の事例を挙げてみました。

海外のハラスメント対策事例一覧【職場編】

イギリスのハラスメント対策

職場のセクハラ防止対策

イギリスでは、5人中3人の女性が職場でハラスメントを経験したことがあり、さらに、5人中4人が事業主にセクハラを報告できないと感じていることから、事業主に行動を義務付ける法的義務が必要だとして、TUC(Trades Union Congress:労働組合会議)などの労働組合や女性支援団体が「#ThisIsNotWorking」というキャンペーンを展開し、職場でのセクハラ防止対策の強化を政府に求めていました。

その結果、政府平等局(Government Equalities Office)は、2021年に職場でのセクハラ防止のための新たな法的義務を導入することを発表。2023年に施行された「労働者保護法(Worker Protection Act)」により、事業主は以下のような具体的な対策を講じることが求められています。

①    ハラスメント防止のための合理的な措置の導入
明確なポリシー策定や従業員へのガイダンス&トレーニング

②    明確な報告体制の整備
匿名での報告手段の提供や、報復のない安全な報告体制の構築。従業員はACAS(Advisory, Conciliation and Arbitration Service:助言斡旋仲裁局)などの外部機関を通じて、匿名での相談や報告が可能。

③    顧客やクライアントなど、第3者によるハラスメントへの対応

④    措置を講じない事業主に対する罰則と責任
雇用主がハラスメント防止のための合理的な措置を講じなかった場合、被害者への賠償金が最大25%増額される可能性がある。EHRC(平等人権委員会)はこの義務の履行を監督し、必要に応じて執行措置を取る権限を持っている。

フランスのハラスメント対策

企業のハラスメント防止対策

フランスでは、職場のハラスメントは“職場のモラルハラスメント”と呼ばれており、セクハラとともに法律で厳しく規制されています。

モラハラは労働法によって規制されていますが、セクハラに関しては、1992年に刑法上の犯罪と定義されて処罰の対象になり、2012年には労働法にセクハラに関する規定が導入されています。

どちらも罰則として2年以下の禁錮刑、あるいは3万ユーロ以下の罰金が科されることになっています。

ハラスメント全体の具体的な防止対策は以下の4点です。

①    ハラスメント防止方針の策定と周知の義務
50人以上の企業に対して義務付けられている

②    上司や管理職に対するハラスメント防止研修の義務

③    ハラスメント相談窓口の設置
企業は内部通報制度を設け、従業員が匿名で報告できる仕組みを提供

④    従業員代表(Referent Harcelement)の配置
ハラスメント担当の代表者を選出して対応を強化

実際に、メガバンクBNP Paribas(BNPパリバ)は社内通報制度を強化して従業員向けのeラーニングを導入、自動車メーカーRenault(ルノー)は全管理職に対するハラスメント防止研修を行っています。

スウェーデンのハラスメント対策

企業に対する国のハラスメント防止対策

スウェーデンでは、複数の法律が連携して職場のハラスメントを包括的に防止・規制している点が特徴です。

①    雇用環境法
職場の安全や健康を確保するため、ハラスメントを含む心理的・社会的リスクを防ぐことを目的とした法律で、ハラスメントを防止し、安全な職場環境を確保する責任を持つこと事業主の義務としている。労働環境庁(Arbetsmiljöverket)の是正命令に従わない場合は罰金あり。

②    雇用環境規則(AFS1993:17)
職場でのいじめや心理的暴力を防ぐための具体的なガイドラインを提供。リスク評価を行い、予防策を講じることを事業主の義務としている。違反した場合は是正命令や罰金が科される。

③    差別禁止法
スウェーデンでは、ハラスメントは人種、民族、宗教、障害、性的指向、年齢、またはその他の信念などに基づく差別と認識されているため、この法律も関わっている。差別やハラスメントが発生しないように積極的な対策を講じることを事業主の義務としている。違反した場合は差別オンブズマン(Diskrimineringsombudsmannen, DO)が調査し、罰金や賠償命令が下される。

 

独立行政機関である差別オンブズマンは、それまで存在していた4つの異なるオンブズマン(人種オンブズマン、ジェンダー平等オンブズマン、障害者オンブズマン、性的指向オンブズマン)を統合し、職場や社会における差別やハラスメントの防止と平等な権利を推進することを目的として2009年に設置されました。

差別オンブズマンは、職場のハラスメントに関する苦情を受け付け、企業に対して指導や罰則を科したり、必要があれば裁判所に事件を提起することができます。

ハラスメント大国日本 独特な職場環境を踏まえた対策を

令和5年度 厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、「パワーハラスメントが発生する職場の特徴」として最も多かったのが「上司と部下のコミュニケーションが少ない」でした。(51.1%)。

縦社会が未だに根付く職場環境、集団から排除されない様にと世間体を気にしてしまう国民性。海外の方々と違って耐えることを美徳とする傾向のある日本人は、個人の権利を主張することを躊躇ってしまい、ハラスメントが露見しない場合があることも想定されます。

海外事例を参考にしつつも、日本の職場や日本人の独特な特徴を理解した上での対応が求められます。

 

 

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出典:

https://www.ilo.org/sites/default/files/wcmsp5/groups/public/@asia/@ro-bangkok/@ilo-tokyo/documents/publication/wcms_733206.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf

https://www.gov.uk/workplace-bullying-and-harassment

https://www.tuc.org.uk/campaigns/sexual-harassment-has-no-place-workplace-thisisnotworking

https://www.napo.org.uk/blogs/thisisnotworking-campaign-launched

https://www.ft.com/content/859f304a-2787-49c6-9e5a-5d12ad31101c?utm_source=chatgpt.com

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