ハラスメント対策が義務化?② 海外の対策事例【日常編】

ハラスメント対策が義務化?① 海外の対策事例【職場編】」では、海外の職場におけるハラスメント防止対策事例やハラスメントに関する法律をご紹介しました。

しかし、ハラスメントは職場だけで起きているわけではありません。路上や電車内、飲食店、学校など、もっと言えば家庭内という身近なところも含め、誰もが経験し得るものです。

もし海外滞在中に被害に遭いそうになったり、遭ってしまったりした場合はどうしたらいいのでしょうか?職場でなくてもハラスメント対策は整っているのでしょうか?

「日常編」として、職場以外の場に関する海外のユニークなハラスメント対策事例をご紹介します。

 

海外のハラスメント事情

海外では「パワーハラスメント」「モラルハラスメント」とは言わない?

そもそも、ハラスメントという言葉は海外(英語圏)でも同じ意味で使われているのでしょうか?

英単語の「harassment(ハラスメント)」は、主に「誰かを苛立たせたり、動揺させたりする行為」という意味で使われていますが、「セクハラ」「パワハラ」「モラハラ」のように日本ほど多様な意味として用いられてはいません。

「sexual harassment(セクシュアルハラスメント)」以外のハラスメントについては、「mobbing(個人が孤立して標的にされる集団いじめの一形態)」や「bullying(弱い立場にあるとみなされた人に危害を加えたり、脅迫・強制したりする)」「discrimination(差別)」「abuse(虐待)」などを使用して表すのが一般的です。

例えば、職場でのパワハラは「workplace bullying(職場でのいじめ)」「workplace harassment(職場のハラスメント)」「abuse of power(権力の濫用)」、モラハラは「emotional abuse(精神的虐待)」「psychological abuse(身体的虐待)」、マタハラは「pregnancy discrimination(妊娠差別)」などと呼ばれています。

つまり、英語圏ではパワハラやモラハラなどのように直接対応する表現がないものもあり、そのようなものは、いじめ、差別、虐待などの単語を形容詞や副詞と合わせることで表現しています。

そのため、職場でのパワハラ(いじめ)を「workplace bullying」と呼ぶ人もいれば、「bullying at work」や「bullying in the workplace」と呼ぶ人もいます。

 

※「sexual harassment(セクハラ)」や「pregnancy discrimination(マタハラ)」は国際的に認識されている言葉です。

「bullying(いじめ)」はいつからパワハラを意味する言葉に?

「bullying」って「子ども同士のいじめ」という意味では?と思った方もいらっしゃると思います。元々はそうでしたが、実は30年以上も前から、先にお伝えしたような「大人の職場環境におけるパワハラや嫌がらせ」という意味でも使われるようになっています。

まず、1980年代にスウェーデンの心理学者ハインツ・レイマン(Heinz Leymann) が職場でのいじめという行為を概念化し、イギリスのジャーナリスト、アンドレア・アダムス(Andrea Adams)が1990年代初頭に、BBCラジオのドキュメンタリーシリーズを通じて「workplace bullying」という用語を広めました。

大人の世界にもいじめがあることが研究され、社会的に認識されていくとともに、「bullying」は以前より広い意味合いを持つようになったのです。


海外のハラスメント対策事例一覧【日常編】

① アメリカのハラスメント対策 SAFE Bar Network

SAFE Bar Networkは、アルコールを提供する施設と提携し、利益やリピーターの増加、従業員の離職率の低下を支援する非営利団体です。

バーやナイトクラブなどでのアルコール過剰摂取やハラスメント、その他の危害を防ぐために、従業員向けに傍観者スキルを身につけるトレーニングを行い、不審な状況に適切に対応できるようにしています。

② イギリスのハラスメント対策 Ask for Angela

イギリスには、パブやナイトクラブ等利用時に不安を感じている人を支援するシステムである“Ask for Angela”というコード(暗号)が存在します。

該当施設において危険な状況に陥った際、“Ask for Angela”とスタッフに告げると、友人と合流できるように計らってくれたり、タクシーを呼んでくれたりするので、その場から安全に非難することができるというものです。深刻な状況であれば、警備員や警察への通報も行ってくれます。

③ カナダのハラスメント対策 Angel Shot

カナダをはじめ、世界では秘密のコードシステム“Angel Shots”を提供するバーやレストランなどが増えています。これは、女性が危険を感じたときに使えるコードで、“Angel Shotください”と注文するとスタッフが手を差し伸べてくれるシステムです。

Angel Shotの飲み方によって助けて欲しい内容が分かるようになっており、

 

neat(ストレート)なら・・・・・・スタッフが車まで付き添ってくれる

with ice(オンザロック)なら・・・・・・スタッフがタクシーを呼んでくれる

with lime(ライム付き)なら・・・・・・スタッフが警察に通報してくれる

 

という仕組みになっています。

④ フランスのハラスメント対策 Stop Harcèlement de Rue

Stop Harcèlement de Rue(ストップ・ストリート・ハラスメント)は、ストリートハラスメント(公共の場でのセクハラや嫌がらせ)を防止するために設立された市民団体です。

街中のハラスメント問題を可視化し、フランス政府に厳格な罰則を求めたり自治体や企業向けにハラスメント対策の研修を提供したりしています。

2018年にフランス政府は、当団体の運動の影響を受け、公共の場での性差別的嫌がらせを罰する法律を制定し、違反者に最大750ユーロの罰金を科すことを決定しました。

⑤ オーストラリアのハラスメント対策 Ask for Clive

オーストラリアでは、“Ask for Clive”というLGBTQ+を含むすべての人が安全に過ごせる場所を提供するキャンペーンがあります。

このステッカーが貼られたバーやナイトクラブなどでは、誰もが安心して過ごせるように、ハラスメントが発生した際にはスタッフが対応してくれることを示しています。

⑥ スペインのハラスメント対策 Punto Violeta

 “Punto Violeta(プント・ヴィオレッタ:紫のポイント)” は、2022年に開始されたスペイン政府が推進する性暴力防止と女性支援の取り組みです。

Punto Violetaステッカーが貼られたバーやレストラン、薬局、公共施設などのスタッフは、適切な対応方法を学ぶためのトレーニングを受講しているため、性暴力やハラスメントを受けた被害者が助けを求めて避難できる場所として機能する仕組みになっています。

この取り組みは、スペインの「包括的な性暴力対策法(Ley de Garantía Integral de la Libertad Sexual)」と連携しており、性暴力被害者が安心して助けを求められる社会の実現を目指しています。

海外のハラスメント対策 法律化されていない取り組みも広まる

このように、助けが必要な時に駆け込める場所、助けてほしいことを伝えるためのコード、それらに対応できるスタッフの配置といったハラスメント対策が、海外では全国的に統一されたルールとして広まっています。

海外では、様々な人種が集まる大都市もあり、レイシャルハラスメント(人種や国籍を理由にした差別やいやがらせ)という日本では聞きなれないハラスメントがありますし、LGBTQ+の認知が広がっていく中で、多様性の尊重という観点からも様々なハラスメント対策の必要性が高まっています。

日本では、児童・生徒が助けを求めた時に一時的に保護し、警察に110番通報してくれる「子ども110番の家(店)」という全国的なボランティア活動はありますが、セクハラ被害での駆け込み対策やコード対応は一部の自治体や店舗のみの取り組みであって、あまり知られていません。

ないようである格差、ストレス社会、在留外国人の人口増加などによって、犯罪要因が少ないと言われている単一の中央集権国家日本でも、制度化された職場以外でのハラスメント対策が必要となってくるかもしれません。

 

 

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出典:

https://www.asisonline.org/security-management-magazine/articles/2017/05/a-brief-history-of-bullying/#:~:text=The%20workplace%20bullying%20phenomenon%2C%20as,the%20act%20of%20workplace%20bullying.

https://www.safebarnetwork.org/

https://askforangela.co.uk/

https://www.cbc.ca/news/canada/british-columbia/angel-shot-unsafe-date-okanagan-bar-1.4521122

https://violenciagenero.igualdad.gob.es/informacion-3/puntovioleta/

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