海外のペーパーレス化事例 紙文書の電子化や業務のデジタル化は必要?

カフェのストローや食品のパッケージなど、以前はプラスチック製であった身近なものが紙に代わりはじめている今。脱プラスチックのための代替品と言われて最初に思い浮かぶのが「紙」という方は多いのではないでしょうか。

しかし、何でも紙製に切り替えれば環境が護れるというわけではありません。紙の原料は木材であり限りある資源です。無計画に紙の生産を行えば森林破壊に繋がります。森林破壊は、野生動物の絶滅や温暖化など、環境へ及ぼす影響が大きく問題となっています。

そのため、SDGs(持続可能な開発目標)にある「つくる責任 つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」「陸の豊かさも守ろう」という3つの目標に基づき、持続可能な森林の管理などの取り組みを世界各国が行っているのです。

ビジネスなどにおけるあらゆる文書の電子化、紙で運用している業務プロセスのデジタル化による “ペーパーレス化”もその1つと言えるでしょう。

日本は紙・板紙の消費量が世界でもトップクラスです。他国のペーパーレス化事例を元に、紙の無駄な使用を控える方法について考えてみませんか。

海外のペーパーレス化事例5選

1. エストニアのペーパーレス化事例

データ連携プラットフォームX-Road

エストニアはSkype発祥国(後にMicrosoftの傘下に入り現在はサービス終了)で知られる電子国家です。

住民はデジタルIDカードによって本人確認や署名、投票、納税などをオンラインで行うことができ、ほぼすべての行政手続きがオンラインで可能となっています。電子署名(e-Signature)は法的効力があるため、契約や申請書類に物理的な紙が不要なのです。

さらに、医療記録や処方箋、診察予約、学校の成績や連絡までもがオンライン管理されています。

これらの個人情報が管理されている行政機関や民間企業、病院などの異なる情報システムは、国家レベルのデータ連携プラットフォームであるX-Road(クロスロード)というシステムで統合されており、データは一元管理ではなく分散保存されているため、セキュリティとプライバシーが確保されるという仕組みになっています。

このように、エストニアが電子国家として成功したのは、国民のITリテラシーが高く、学校教育において早期からプログラミングを導入していたためだと言われています。

2. シンガポールのペーパーレス化事例

各種申請をオンラインで完結させるMyInfoシステム

シンガポールでは、2014年に政府が発表した国家プロジェクトSmart Nation Initiative(スマートネイション構想)において、全行政手続き、教育、医療、インフラなどをデジタル中心に再構築。MyInfo(マイインフォ)システムの導入により国民の個人情報(住所、学歴、雇用情報、納税記録など)を一元化し、銀行口座開設、住宅ローン申請、就職活動などでの情報入力が不要となりました。各種申請がオンラインで完結するため、書類を提出する必要がないということです。

具体的には、公共料金や税金通知などをすべてデジタル化し、SingPass(シングパス)という国民IDアプリを通じてオンラインで管理や決済ができるようにしたり、小中高校ではデジタル教科書やタブレット端末を使用し、宿題や成績のやり取りをオンラインで行ったりしています。医療分野では、患者の医療情報を全国の医療機関でリアルタイム共有し、紙のカルテや紹介状を廃止しました。

3. スウェーデンのペーパーレス化事例

デジタル郵便システムKivra

Kivra(キヴラ)は2011年に開始されたデジタル郵便受けサービスで、政府機関、企業、自治体、病院などから送られてくる税金通知や給与明細、電気料金、保険、自治体通知、病院の予約通知などの書類がすべてオンライン上の個人アカウントで受け取れるようにしたものです。2024年時点で送信者提携している企業や団体は25,000以上、500万人以上のスウェーデン国民が利用(人口の約半数以上)しています。

このサービスにより、紙の使用量削減による環境負荷の軽減だけでなく、輸送削減(郵便・物流)のCO₂排出低減も実現されました。

お店で買い物をしたレシートもKivra経由で受信可能な点、紙削減によってどれだけ環境に貢献しているかのレポートを表示し、カーボンフットプリントが見えるようになっている点がユニークです。

4. カナダのペーパーレス化事例

医療情報をデジタル管理する電子カルテEMR

Canada Health Infoway(カナダ・ヘルス・インフォウェイ)という政府支援の非営利団体が、各州・準州と連携して電子カルテEMRの普及を支援しており、カナダの多くの州では、病院や診療所がEMRを標準化しています。

EMRは診療内容や検査結果、処方歴などをデジタルで記録・管理するもので、患者自身もオンラインポータル(MyHealth RecordsやHealth Gatewayなど)を通じてEMRの一部の情報、検査結果や予防接種履歴などにアクセスすることができます。患者が異なる病院を受診しても医療情報の共有がスムーズで薬の重複処方やアレルギー確認も簡単、データ分析ができるので公衆衛生対策や医療リソース管理にも応用可能というメリットがあります。

5. ドイツのペーパーレス化事例

教育現場のデジタル化を推進するDigitalPakt Schule

ドイツは2019年から2024年に国家的な取り組みDigitalPakt Schule(デジタルパクト・シューレ)を実施。これは、教育現場おけるITインフラの整備とデジタル教育の推進を目的としたもので、全国の学校にタブレット、プロジェクター、スマートボードなどのデジタル機器が導入され、教科書はデジタル化、課題提出とフィードバックはクラウド上で行われました。

これにより教科書印刷コストの大幅削減、学習データの蓄積と分析が可能になりました。課題や批判点を活かしながら第2フェーズも検討中とのことです。

ペーパーレス化にもデメリットが、しかし

このように、紙代や印刷コストの削減、業務効率の向上、セキュリティ対策強化、環境保護をはじめとするサステナビリティの実現など、様々なメリットがあるペーパーレス化ですが、日本の行政や企業などでは依然として紙文書に依存している印象があります。事実、2024年11月にPDF Guruが実施した調査において、日本のオフィスの90%以上が紙文書を使用しており、約2割は未だに文書を紙とペンで作成していることが分かっています。

e-文書法により、商法や税法で保管が義務づけられている文書について、電子化された文書ファイルでの保存も認められているものの、紙に印鑑を押すという文化がある我が国では、紙文書でのやり取りの方が信頼できて安心という意識が根強いからかもしれません。

また、文書を電子化すると、「視認性が落ちる」「メモ書きが即座にできない」「複数資料を同時に参照し難い」という不便さから、故障によるデータ消滅やサイバー攻撃、個人情報漏えいへの懸念などの問題まで、データ情報ならではのデメリットを考えると、ペーパーレス化を進める意義が分からないという声もあります。

しかし、最大の意義は持続可能な未来の実現です。無駄な紙の生産による森林破壊を防ぎ、野生動物の絶滅や地球温暖化を食い止めるためには、やはり進めていくべき取り組みと言えるのではないでしょうか。

 

 

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出典:https://pdfguru.com/ja/blog/digital-trends-in-japanese-offices-research

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