土用の鰻だけじゃない?江戸時代のマーケティング事例集
現代のビジネスで欠かせない「マーケティング」。その起源はアメリカだと言われていますが、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」で描かれているように、江戸時代の商人たちもユニークな販売戦略を実施していました。
ここでは江戸時代の代表的なマーケティング事例を通して、日本独自のマーケティングの歴史を紐解きます。
江戸時代の商業環境とマーケティングの萌芽
江戸時代(1603~1868年)は、約260年にわたる平和な時代であり、経済と都市文化が大きく発展しました。江戸、大阪、京都といった都市には商人や職人が集まり、消費市場が形成されました。
この時代に活躍した「江戸商人」や「大阪商人」は、単なる物売りではなく、商品をどう差別化し、いかに消費者に選んでもらうかを考えていました。つまり、現代の「マーケティングの基本」に通じる考え方を実践していたのです。
土用の鰻も江戸時代のマーケティング
現在でも根付いている土用の丑の日に鰻を食べる習慣も、実は江戸時代にマーケティングとして生み出されたものです。
意外と知られていませんが、鰻の旬は秋から冬です。また、江戸時代には、夏に脂っこい鰻を好んで食べる人は少なかったのです。そんな夏には売れにくい鰻を売るために考案されたのが、鰻屋の店先に「本日丑の日」と書いた張り紙を掲げることでした。諸説ありますが、考案者は蘭学者の平賀源内だと言われています。
これは「キャッチコピーによる需要喚起」の成功例であり、現代の広告マーケティングに通じる手法といえます。この他にも、江戸時代に考案されたマーケティングは多数あります。
江戸時代 日本のマーケティング事例集
1 越後屋の「現金掛け値なし」
江戸時代の呉服商「越後屋(三井越後屋)」は、当時として画期的な販売戦略を打ち出しました。それが「現金掛け値なし」、つまり値引き交渉なしの明朗会計です。
当時の商習慣では「掛け売り(ツケ払い)」が一般的でしたが、越後屋は現金即金を条件に低価格で販売する方式を導入しました。これにより顧客の信頼を獲得し、のちの三越百貨店へと発展していきます。
これは「価格戦略」によるマーケティングの成功例といえるでしょう。
2 伊勢商人の「のれん」とブランド戦略
伊勢から全国へ出店した伊勢商人は、商売において「のれん」を重視しました。のれんは単なる布ではなく、店の信用や品質を保証する「ブランド」の役割を果たしていたのです。
さらに、伊勢商人は「伊勢講」という仕組みを使い、集団での宣伝や販売促進を行いました。これは今日の「ブランドマーケティング」や「共同プロモーション」に近い取り組みでした。
3 薬売りの「先用後利(さきもちこうり)」
富山の薬売りは「先用後利」というユニークな販売手法を採用していました。薬を先に家庭に置いておき、使った分だけ後から代金を支払う仕組みです。
これは「お試しマーケティング」や「サブスクリプションモデル」の先駆けであり、消費者に安心感を与えることで長期的な信頼関係を築きました。現代のマーケティングに通じる極めて先進的な戦略といえるでしょう。
4 菓子屋の「試食販売」
江戸の町では菓子屋が通行人に試食を勧めることがありました。味を確かめてもらうことで購買意欲を高める、いわばサンプリング戦略です。
「食べて美味しいとわかれば売れる」という発想は、現代のスーパーやデパ地下での試食販売と同じです。商品の魅力を体感させるこの手法は、消費者心理に直接訴える典型的なマーケティングといえるでしょう。
5 浮世絵とスターを活用した広告
浮世絵は単なる芸術品ではなく、広告メディアでもありました。役者絵や美人画は人気スターの肖像画であり、そこに商品や芝居の宣伝を組み合わせることで集客につなげました。
これは現代の「インフルエンサーマーケティング」に近い発想です。スターの人気を借りて商品価値を高める仕組みは、今のSNS広告にもつながるものです。
6 宿場町の口コミとリピーター戦略
東海道や中山道などの宿場町では、旅籠(宿)が競い合っていました。宿の良し悪しは旅人の口コミで広まり、常連客を囲い込むための工夫も生まれます。例えば「常連には料理を一品多く出す」といったサービスが行われました。
これは現代で言う「ロイヤルティ・プログラム」や「会員制度」にあたります。口コミと顧客体験の重視は、今もマーケティングの基本です。
江戸時代のマーケティングから学ぶ
江戸時代の事例は単なる昔話ではありません。これらの事例を通して見えてくるのは、江戸時代の商人たちが顧客の心理をつかみ、信頼を築くことを重視していたことです。そこには価格戦略、ブランド戦略、広告宣伝、販売方法の工夫と、現代のマーケティング理論と共通する要素が含まれています。
「江戸時代 マーケティングの歴史」を振り返ることは、現代のビジネスのヒントにもなるのではないでしょうか。