ジョンルイス【クリスマスCM 2025】共感とノスタルジアで誘う消費

今年も漸くこの時期がやってきました。街中には特別煌びやかなイルミネーションが灯り、お店のショーウィンドウは1年で一番華やかなデザインで人々を魅了する。スーパーマーケットではブラッセルスプラウト、パースニップ、じゃがいもなどが大量に販売されはじめるこの時期……そう、クリスマスです。

そして、イギリスでは多くの人が毎年楽しみにしているあの百貨店のクリスマスCMが流れる季節。それは言わずと知れたジョン・ルイス(John Lewis)のクリスマスCMです。

デザインの良さもさることながら、高品質でリーズナブルな品揃えにより、地元の人々から絶大な信頼を寄せている百貨店、ジョン・ルイス。当店のショート・フィルム風のクリスマスCMは、イギリスでは今や“年末の風物詩”となり、公開されるや否や人々の話題に上がるほど。ホリデーシーズンの始まりを示す広告とも言われています。

あるイギリスのメディアでは「ジョン・ルイスがこれまでに作った中で最高のクリスマス広告です」と紹介されていました。一体、どんなストーリーなのでしょうか?

 

ジョン・ルイス百貨店の2025年クリスマスCMは?内容を解説

Where Love Lives | John Lewis & Partners | Christmas Ad 2025(愛のある場所 | ジョン・ルイス & パートナーズ | クリスマス CM 2025)

「贈り物を通して言葉にできない思いを伝える」10代の息子とその父の物語

今年のキャッチコピーは「If you can't find the words, find the gift.(言葉が見つからないなら、贈り物を探しませんか)」。

男性がクリスマスツリーの下に散らばるプレゼントの包装紙を片付けていると、”DAD(父さん)”と書かれた未開封のプレゼントを発見する。それを落ち着かない様子で見ていた少年。どうやら少年は男性の息子で、薄い正方形の包みは彼が父親に宛てたクリスマスプレゼントのようだ。

父親が包装を開けると、中身はアリソン・リメリック(Alison Limerick)の90年代のクラブアンセム『Where Love Lives』のビニールレコードだった。レコードをプレーヤーにかけると、ミュージシャンのラブリンス(Labrinth)がリミックスしたこの曲が軽快に流れ出し、彼は90年代のクラブにタイムスリップ。若者たちに紛れて踊る中、群衆の向こうに息子を見つける。少年は何かを求めているような表情でこちらを見ていた。

音楽がスローダウンすると同時に群衆は消え、父と息子はゆっくりと歩み寄る。父親がこちらへ来るように促した瞬間、少年は幼児の姿になって駆け寄り、抱き上げられると赤ん坊の姿となって父の顔に無邪気に手を伸ばした。

 

“Why don't you take my hand(手を取って)

Come away, come out of your blues(さあ、ブルース※から抜け出せ)

〈中略〉

I'll take you down, deep down where the love lives(愛が宿る深いところへ、君を連れて行く)

Where love lives, where love lives (愛のある場所、愛のある場所)

 

父親が顔を上げると、そこは自宅のリビングで、恐る恐る近づく息子を抱きしめると、2人は笑い合った。それは2人が長い間求めていた瞬間だった。

 

※音楽ジャンル“ブルース”の由来は悲しみ・憂鬱の感情を表す“blue”とされている

テーマ「父と息子の関係」は初!世間の反応は

このように、今年のストーリーは、長年距離ができてしまった父と息子の関係修復をテーマにしたものでした。父と息子に焦点を当てたものはジョン・ルイスの18年にわたるクリスマスCMで初めてと言われています。

一般的に、父親世代の男性は「感情を語る」「弱さを見せる」ことが難しい存在として認識されていますが、ジョン・ルイスは、この葛藤を肯定するようなストーリーを描くことで、ポジティブな男性性を提示しています。

ジョン・ルイスのYouTube公式チャンネルにアップされたこのCMは、本記事執筆現在で約167万回再生、2,347 件のコメントが寄せられていますが、男性からの好意的な内容のものが圧倒的に多く見られました。

 

男性を象徴する広告で、男らしさや父性、そして男性の繊細さを称えている

世の中のお父さんと息子さんたちに敬意と愛を。父親を感情のない、ただの道具のように描く広告はもうやめるべき

ここ数年で最高の広告。父親がからかわれるのではなく、前向きに描かれている

ついに、父親も母親と同じくらい愛されるべき存在として描かれるようになったのは素晴らしい

ついに父親がメディアで好意的に表現されるようになったなんて素晴らしい!

離婚した父親として、この広告には衝撃を受けた。来年25歳の誕生日を迎える息子と過ごした貴重な時間をすべて取り戻せた

(他チャンネルにアップされた同CMへのコメントも含む)

営利目的ではなく感情に訴えかける「消費への誘導」戦略

ジョン・ルイスのクリスマスCMすべてにおいて言える広告としての巧みな点は、自社商品やサービスの素晴らしさをアピールするのではなく、視聴者の感情に訴えて消費行動を起こさせる点と言えるでしょう。

今年のCMでは、贈り物を「言えない言葉を伝えるギフト」の象徴とし、消費をただの営利行為ではなく、感情のコミュニケーション手段としているところが高く評価できます。

CMが単なる商品告知を超え、視聴者自身の人生史、すなわち青春、家族関係、時代感覚といった「個人の物語」そのものへアクセスする装置として機能するため、それが喚起する感情は非常にパーソナルで強度の高いものになります。

その結果、「買うべき商品があるから買う」のではなく、「自分の感情を確かめるために買う」「大切な人に今こそ何かを贈りたくなる」という、より根源的な動機に近い消費行動が誘発されます。

さらに、90年代クラブカルチャーというノスタルジア要素が、主に40〜50代の視聴者(購買力の高い層)に向けて 「あの頃の自分」への回帰を許す構造となっており、そこに「父としての現在の自分(子持ち男性に限定されるが)」を重ね合わせる演出が強い情緒的カタルシスを生んでいます。

こうした仕掛けによって、ジョン・ルイスのCMは視聴者に「自己への回想→大切な人との関係の再評価→贈り物という行為への動機付け」という心理的プロセスを自然に辿らせることに成功していると言えるでしょう。

ジョン・ルイス百貨店のクリスマスCMは世相の反映としても注目

男らしさの再定義「ケアされる男性像」への動きがCMテーマに影響か

今年はNetflixのシリーズ 「Adolescence(アドレセンス)」が大ヒットし、若者のメンタルヘルスや家庭問題だけでなく、「男性性」に関する議論を呼び起こしましたが、社会制度・企業・教育・文化の各分野でも「男性性とは何か」を問い直す動きが複数見られました。例えば、労働党議員グループが、若い男性を「toxic influencers(有害な影響力者)」から守るべきだと訴え、教育現場に健全な男性ロールモデルを求めたり、消防士たちが男性のネイルを通じて固定観念に挑むキャンペーンを開催したりといった出来事がありました。

男性の生きづらさについて公に語られる機会が増えており、男性は力強くて寡黙で感情表現が不器用などといった古いイメージから、よりケアされる存在としての男性像への移行が進んでいます。

ジョン・ルイスのクリスマスCMにはこうした世相が意図的に反映されているとも考えられます。

 


毎年テーマを変えながらも感情優位のブランド構築を一貫しているジョン・ルイス。どのCMテーマも、戦略的に広すぎず、狭すぎずの絶妙な普遍性でより多くの人が共感できるようになっています。

来年はどんなストーリーでどの層に共感をもたらしてくれるのか、ちょっと気が早いですが楽しみですね。

 

 

▼イギリス百貨店ジョン・ルイス「過去のクリスマスCM」に関する記事はこちら

イギリス百貨店ジョン・ルイス[2024クリスマスCM]今年は少し違う?

イギリス百貨店 ジョンルイス【クリスマスCM 2023】は?

ジョン・ルイスのクリスマスCM。2018年はエルトン・ジョンの人生

ジョン・ルイスの2017年クリスマスCMが公開。昨年からの変化は?

英・百貨店「ジョン・ルイス」クリスマスCMから読む2016年

 

 

▼ジョン・ルイス公式サイトによる過去のクリスマスCM詳細はこちら

https://www.johnlewis.com/content/gifts/every-john-lewis-christmas-advert-ever-aired#intcmp=ic_20251104___christmasadhubeveryadever_co_sitew_a__conb

 

 

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出典:

https://metro.co.uk/2025/11/04/john-lewis-2025-christmas-advert-finally-back-tear-jerking-best-24603956/

https://www.theguardian.com/society/2025/mar/19/group-of-labour-mps-seeking-to-steer-young-men-away-from-toxic-influencers

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