イギリスの百貨店「ジョン・ルイス」2023年クリスマスCMは?
11月9日、イギリス国民が待ちに待ったジョン・ルイス(John Lewis)のクリスマスCMがジョン・ルイス&パートナーズ(John Lewis & Partners)のソーシャルメディアチャンネルで公開されました(テレビでは翌日10日から放送)。
ジョン・ルイスは言わずと知れたイギリスの大手百貨店チェーンであり、ロンドンのオックスフォード・ストリートにある旗艦店はエリザベス女王よりロイヤルワラント(王室御用達)を授与されています。高品質でリーズナブルな価格であることが人気の1つで、ロンドナーからは生活用品やギフトの調達場として厚い信頼を寄せられています。
そのジョン・ルイスが制作するショート・フィルム風のクリスマスCMは、毎年この時期になると話題になり、公開されるや否や人々の話題に上がり、多くのメディアで取り上げられるほど。イギリスの人々は、このCMを目にすると、今年もクリスマスがやってきたという実感が湧くのだそうです。
では、今年はどんなCMだったのでしょうか?一緒に見てみましょう。
ジョン・ルイスのクリスマスCM(2023年)は?
主人公はエネルギッシュでいたずら好きなハエトリグサ
アンティークマーケットで「GROW YOUR OWN Perfect Christmas Tree(君だけの完璧なクリスマスツリーを育てよう)」と書かれた木箱を見つけた少年アルフィー。中に入っていた種をさっそく植えてみましたが、芽が出てみると、それがもみの木どころか食虫植物のハエトリグサであることが分かります。英語で“Venus Flytrap”と呼ばれるように、女神のまつ毛のようなトゲのある葉が特徴的なハエトリグサです。
それにもかかわらず、アルフィーはハエトリグサをスナッパーと名付け、クリスマスツリーの絵を描いて見せるなど、完璧なクリスマスツリーにしようと奮闘します。
スナッパーはというと、犬を追いかけ回したりデコレーションを噛みちぎったり、クリスマスのあらゆる楽しみに参加したいだけなのに家族を困らせてしまうことに。ある夜、物音に驚いて起きてきた家族が目にしたのは、ランプを捕虫葉の1つにくわえていたずら中の、大きくなりすぎたスナッパーの姿でした。とうとうスナッパーは、寒さの中、庭に引き摺り出されてしまいます。代わりに置かれた本物のクリスマスツリーを窓の外から寂しげに眺めるスナッパー……。クリスマスの準備が着々と進む中、1人浮かない顔のアルフィー……。
クリスマス当日、アルフィーはツリーの前に置かれたプレゼントを1つ、スナッパーのところへ持って行きました。それを見た家族も、それぞれプレゼントを持って後に続きます。
今では見上げるほど大きくなったスナッパーの頭(補虫葉?)が下りてきたかと思ったら、なんと、ガブガブっとプレゼントをくわえてパッケージをむしゃむしゃ。包装紙が紙屑になって舞う中、家族それぞれにプレゼントの中身が飛んできて、スナッパーが吹き出す紙屑がクリスマスを祝う紙吹雪のように冬空を彩りました。
ジョン・ルイスのカスタマーディレクター、シャーロット・ロック(Charlotte Lock)氏は、このCMについて次のように述べています。
「このフィルムは家族と進化する伝統のテーマを称賛しており、どんな伝統であっても、愛する人たちと一緒に喜びを見つけることが“完璧な”クリスマスであることを示しています。」
キャッチコピーは“Let Your Traditions Grow(あなたの伝統を進化させよう)”。クリスマス以外のイベントや特別な日でも、従来の伝統とは違う自分だけの、あるいは大切な人と決めた新しい伝統が誰しもあると思います。
「流行よりも自分らしさを重視したい」などという考えの人が増えてきたこの多様性の時代にふさわしく、多くの人の共感を呼ぶCMと言えるのではないでしょうか。
アルフィーの家族が祖母、母、姉という女性のみである点も、家族のかたちが多様化してきたこの時代を反映するための敢えての設定かもしれません。
ジョン・ルイスのクリスマスCMはCMだけで終わらない
CM内のキャラクターの商品化&他とのコラボレーション
CMの公開に合わせ、ジョン・ルイス旗艦店の外壁にはバルーンでできた巨大なスナッパーが現れ、フロアの一部でスナッパーのぬいぐるみや絵本、トートバッグ、パジャマなどが売り出されました。高級スーパーと言われる系列のウェイトローズ(Waitrose)の入り口付近でも一部の商品が販売され、CMを見たであろう顧客の足を止めていました。
スナッパーの“冒険”は当企業内に収まらず、王立植物園キュー・ガーデン(Kew Gardens)の照明インスタレーション(ブランドパートナーがインスタレーションに参加するのは初めてとのこと)やネスプレッソコーヒーマシン(Nespresso)からジョー マローン(Jo Malone)の最新フレグランスまで、必需品のギフトを紹介するエピソード製品フィルムなど様々なところに登場しています。
CMのサウンドトラックはチャリティー
さらに、ジョン・ルイスのクリスマスCMではサウンドトラックも注目されます。今年は世界最高峰のテノール歌手と呼ばれるアンドレア・ボチェッリ(Andrea Bocelli)がイタリア語で「パーティー」や「お祝い」を意味する「フェスタ(Festa)」という曲を歌っています。曲は、パリを拠点とするイタリアのエレクトロポップデュオ、ル・フェステ・アントナッチ(Le Feste Antonacci)がこのCMのために書き下ろしたオリジナル曲。CMの各シーンをよりドラマティックにし、クリスマスの喜びと興奮に満ちたものにしています。
この曲はシングルとしてリリースされ、売上の一部が介護経験のある若者を支援する取り組みの一環として、ジョン・ルイス&パートナーズの幸せな未来を築くプログラムのチャリティー・パートナー「Action for Children」、「Home-Start UK」、「Who Cares?」に寄付されるそうです。
ジョン・ルイスのクリスマスCMは何かを買ってもらおうと促すものではありませんが、見た人の心に残る強いストーリー性があります。また、CMに登場する個性的なキャラクターの商品化やコラボレーション、社会貢献への寄与にも繋げており、通常のCM放送以上の利益をもたらすものとなっています。
ジョン・ルイスのクリスマスCM 成功の裏には顧客調査が
古典的かつ変化を続けるクリスマスの伝統と、それらを一緒に分かち合う喜びを称賛する今年のCM。
これは、ジョン・ルイスが行った顧客調査で、ツリーを飾ったりプレゼントを共有したりといった古典的なクリスマスの伝統を愛しながらも多くの家庭が新しい伝統を持っていると判明したことが背景にあるそうです。新しい伝統とは、例えば「クリスマス終日パジャマで過ごす」「外で集まる」「Zoomクリスマス会をする」など、ロックダウン中に広まった伝統のようです(だからスナッパーグッズにパジャマがあるんですね)。
CMは11月28日現在、YouTube上で172万回視聴され、1000件以上のコメントが寄せられています。
顔はないのに動きで感情が伝わる、奇想天外だけれどどこか愛らしいキャラクター。悲しいシーンもありつつ心あたたまる展開でほっこりさせてくれるストーリー。見た後に誰かと共有したくなるようなコンテンツが、SNS社会におけるマーケティング成功の秘訣の1つであることは言うまでもありません。
▼過去の「ジョン・ルイスのクリスマスCM」についてはこちら
英・百貨店「ジョン・ルイス」クリスマスCMから読む2016年
ジョン・ルイスの2017年クリスマスCMが公開。昨年からの変化は?
ジョン・ルイスのクリスマスCM。2018年はエルトン・ジョンの人生
▼弊社へのご依頼はこちらからお気軽にお問い合わせください。
出典:https://www.theguardian.com/media/2023/nov/09/john-lewis-christmas-ad-snaps-back-on-track-with-a-venus-flytrap