イギリス医療制度 日本との違い/費用は無料? 病院の行き方etc
世界では全国民を対象とした公的医療保険を備えている国は意外に少なく、日本とイギリスはどちらもその稀な例に属しています。したがって、日本もイギリスも国民が比較的平等に医療サービスを受けられる国であるといえます。
この記事では、そんな日本とイギリスの医療を比較していきます。
イギリスの医療制度 NHSとは
イギリスの医療制度の根本となる国民保健サービスは、NHS(National Health Service)と呼ばれています。1948年から現在までの長い歴史を持っており、自国の医療が誰でも無料で受けられることはイギリス国民の誇りでもあります。NHSは全ての人に平等な医療を提供することを理念としているため、イギリスでは医療を受けることも人権だという考えが根付いています。
NHSにはイギリス国民だけでなく、イギリスに6か月以上滞在する人なら外国人でも加入できます。NHSに加入する最大のメリットは、原則的に自己負担なしの無料で医療サービスを受けられることです(※歯科診療など、料金がかかるものもあります)。
NHSに加入すると、16歳以上の就労者は保険料として「National Insurance Contribution」を支払う義務が発生します。この点においては、日本の健康保険と少し似ています。また、外国人の場合はビザの取得や延長の際にNHS利用料の支払いを求められます。
イギリスの医療費は無料? 病院に行くには?
前述したように、イギリスではNHSに加入している人は無料で医療を受けられます。ここでは加入している人と、そうでない人に分けて、イギリスで医療サービスを受ける方法を紹介します。
※救急医療についてはNHSの加入の有無に関わらずNHS医療機関の受診が可能で、急性期の治療料金の請求はされません。救急車が必要な場合は「999」に電話して、「Ambulance(アンビュランス、救急車)」と伝えてください(イギリスでは消防と警察も同じ電話番号だからです)。
NHS加入者の場合
NHSを利用して医療サービスを受けたい場合には、まずGP(General Practitioner)と呼ばれる医療施設の利用登録が必要になります。GPを日本の医療に例えると、自宅の近所のクリニックのような「かかり付け医」になります。
NHSのウェブサイトからは近隣のGPを検索できるので、自分にとって利用しやすい施設を選び、直接足を運んで利用登録します。その際にはパスポートやビザ、NIナンバーの控えなどの持参する必要があります。
病気やケガで医療サービスを受けたい場合は、GPに診療予約をする必要があります。いきなりGPに足を運んでも診察を受けられないので、注意が必要です。これは日本とは異なる、イギリスの医療制度独特のデメリットかもしれません。ただし、救急の場合はNHS病院の救急科(Accident and Emergency、A&E)の受診や、「999」に電話して救急車を呼ぶことが可能です。
また、GPでは全般的な診察が可能ですが、検査や手術などの高度な医療サービスが必要な場合は、GPに紹介してもらってから別の病院に行く必要があります。日本でも、いきなり大きな病院には行かず、近所のクリニックで紹介状を書いてもらうことが多いのではないでしょうか。
NHS未加入者の場合 -海外旅行中の医療-
NHSに未加入の場合、イギリスでの医療は無料にはなりません(※救急の場合を除く)。それでも、海外旅行中に医療施設を利用しなければならないケースも想定できます。
下記の情報はイギリスに限らず、海外旅行の際に役立つ医療機関の受診や医療費に関する知識です。
海外旅行保険に加入している場合_日本人スタッフがいる病院を受診できる?
旅行者で、かつ海外旅行保険に加入している場合は、まず保険会社のサポートサービスに連絡することがおすすめです。そこで医療機関の詳細を教えてもらえたり、手配してもらえたりする場合もあるからです。医療機関を受診する際に必要な書類についても、保険会社からアドバイスがもらえます。
海外旅行保険に未加入の場合_医療費はどうなる?
海外旅行保険に加入していない場合は、GPではなくプライベートの医療機関を受診して、請求された金額を一時的に全額負担します。ロンドン市内なら、ジャパングリーンメディカルセンターのような日本語で診察を受けられるプライベートの医療機関があるので、それほど心配する必要はありません。
医療機関の受診の際には必ずパスポートを持参し、診断書や領収書も忘れずにもらっておきましょう。
支払った医療費に関しては、帰国してから海外療養費制を使って請求することができます。ただし全額支給ではなく、同じ病症を日本で治療した場合にかかる医療費を基準に、その7割の金額が支給されます。また、日本国内で保険診療として認められている医療行為のみが対象です。
イギリス医療制度 メリット&デメリット 日本との違い
イギリス医療制度のメリットは何と言っても、ほとんどの医療行為が無料であることです。日本では2022年まで保険の適用外だった不妊治療も、イギリスでは多少の制限はあるものの無料になることが多いようです。人工妊娠中絶手術でさえも無料で受けられます。
このようなメリットがある反面、無闇やたらと医療施設を利用しようとする人もいない訳ではありません。ブレクジットの選挙の前には、GP が混んでいるのは移民のせいだと主張する、保守派のイギリス国民もいました。そう感じてしまうほど、近年ではGPの予約が取れない、医療行為を受ける待ち時間が長すぎるなどの問題が起きています。
上述した保守派の主張とは相反しますが、医療現場では移民のスタッフも活躍しているため、ブレクジットによって医療現場の人手不足が加速したという見方もあります。
待ち時間が長すぎる!? イギリスの医療崩壊
「医療を受けることも人権」であるにも関わらず、残念ながら、現在のイギリスではそれが脅かされています。NHSの人員不足は深刻化しており、全体で約120万人のスタッフ不足という調査結果が出ています。その結果、予約や治療待ちの患者は約100万人に上り、2023年には救急医療の遅れに関連した死者は推定・約1万4000人に上りました。
医療施設の数も不足していて、患者が病院の廊下で治療を受ける光景が日常化しており、最悪の場合は治療を待っている間に亡くなることもあるようです。前述したようにGPは予約制ですが、その予約を取ることができなかった患者も救急病院を訪れるため、救急であるにも関わらず、数日待ちという信じられない事態も発生してます。
医療現場の人手不足は日本でも問題視されていますが、それでも日本の病院数は世界で一番多いと言われています。日本では軽い風邪でも比較的簡単に医師の診断を受けられますが、イギリスでは薬局で風邪薬を購入したり自宅で安静に過ごしたりする人が多いのも事実です。なぜなら、GPの予約が取れても診察予定日がかなり先になるので、軽い怪我や病気なら予約するまでもないと判断するからです。
イギリスの医療制度は優れている?
この記事では日本とイギリスの医療制度を比較しましたが、いずれの国もそれぞれ問題を抱えてはいるものの、世界的に見れば優れた医療制度のある国であることは確かです。イギリスの医療現場での人手不足が早急に解決され、今後も皆が平等に医療サービスを受けられる日々が続くことを願うばかりです。
この記事は医療の専門家によって執筆されたものではありません。病気や怪我などの際には、医療機関を受診してください。
また、イギリスの医療の詳細は外務省のWEBサイトもご覧ください。世界の医療事情 英国(外務省WEBサイト)