女性の健康管理に見るフェミニズム。日本と海外で違いはある?

先月3月8日は国際女性デー(International Women's Day)でした。国を問わず女性の功績を祝福し、ジェンダー平等を考える日とされています。日本ではそこまで知られていませんが、ロンドンではその近辺で、女性に対する暴力の撲滅を訴える団体が主催するデモ行進「ミリオンウィメンライズ(Million Women Rise)」が毎年行われています。

また、昨年は交通局が市内20カ所以上で横断歩道の信号機のデザインを女性のシルエットに変更して話題になりました。そのシルエットは、ドレスを着た一般的な女性のイメージを描かないことで多様性を表現したということです。

 日本のメディアでもフェミニズムやジェンダーについて考える番組などが増えてきました。今年度から女性活躍推進法の一部改正や不妊治療の保険適用拡大が施行されることとなり、女性が生きやすい社会が少しずつ実現されつつあります。今回は海外の状況と比較しつつ、女性の健康管理の問題からフェミニズムを考えたいと思います。

 

 

取締役会における女性の割合や賃金における男女格差についてはこちらの記事で触れています。

ダイバーシティ & インクルージョン【イギリスの現状と事例】

 

 

そもそも「フェミニズム」「フェミニスト」とは?

 一般に女権拡張主義、女性尊重主義と訳され、性差別からの解放と男女平等を目指す思想や運動を指します。男性よりも多くの権利を得ようとするなど男女で対立するのではなく、性差別のある社会に異を唱え、社会による女性特有の生きづらさを考え行動する人は、男女に関係なくフェミニストということになります。

 

日本と海外で違いはある? ―女性の健康管理に関する支援から

女性がん検診

3年に1度実施されている国民生活基礎調査における日本全国のがん検診受診率は、2010年から増えてはいるものの、2019年(最新調査結果)の時点で乳がん検診(40-69歳)47.4%、子宮(頸)がん検診(20-69歳)43.7%と半数に満たない数字です。

 

これに対し、欧米の受診率は70-80%とほぼ2倍となっています。イギリスでは、25-49歳は3年に1度検診を受けることが推奨されており、無料で子宮頸がん検診が受けられます。組織型検診が実施され、NHS(国民保健サービス)の方針に基づき、GP(総合診療医)登録を行った対象者には受診勧奨通知が届くようになっています。1つの組織が行っているため未受診者を把握しやすく、受診勧奨を確実に行うことができるため、高い受診率を維持できていると言われています。

 

日本でも既定の年齢時に国から「がん検診無料クーポン券」が配布されます。自己負担で受ける場合は市町村毎に異なり、高くても2、3,000円程度で受けることができます。しかし、市町村や職場が実施する検診、人間ドックなどの任意検診など、検診提供機関が多数存在し、それらのデータを一括に集約する仕組みがないため、未受診者は誰なのかを把握することが困難となっている点が問題です。

 

妊娠・ピル問題など

日本とイギリスでは異なる点の多い出産事情

イギリスの妊婦検診は通常の受診同様、無料であるためか、検診の数が少なく産後の入院がほとんどないことで有名です。超音波(エコー)検査は原則2回、基本的には助産師による診察が行われます。バースプランについても細かく希望を聞いてくれるようです。また、妊婦はNHSでの歯科治療や処方箋も無料となります。

 

一方、日本では中期以降は2週間に1回となり、臨月には1週間に1回の頻度になります。毎回、医師による超音波検査と内診があり、感染症などの検査も丁寧に行ってくれます。出産一時金が健康保険から助成され、検診費用は市からの補助券で無料。しかし、分娩方法によっては10万円ほど自己負担しなければならなかったり、補助券の内容に含まれない診察がある場合は自己負担金が発生したりするため、完全に無料の場合は少ないようです。

 

医療の介入が少なく、より自然なかたちで出産ができるのがイギリス式、費用はかかりますが定期的な検診で最悪な事態を予測でき、安心して出産に臨めるのが日本式と言えます。

 

日本では処方箋なしでピルを購入できない

低用量ピルの認可が先進国のどこよりも遅れて1999年に下りた日本。現在も薬局で購入するためには処方箋が必要で入手には時間がかかります。アフターピル(緊急避妊薬)についても同様ですが、欧州では80%以上の国で処方箋を不要とした薬局での購入が可能であり、フランスでは25歳以下の女性は無料で入手できるそうです。

 

厚生労働省の調査では人工妊娠中絶件数が年々減少していることが分かっており、ピルなど避妊方法の定着も影響しているのではと考えられています。正しい知識を持って使用するのであれば、望まない妊娠や中絶による心身的負担を防ぎ、女性が自分自身で身体を守る権利にも繫がるのではないでしょうか。

 

米国発「水に流せる妊娠検査薬」。環境だけでなく女性の心情に配慮

世界初の水に流せる妊娠検査薬「Lia」が昨年から話題となっています。プラスチックやガラス繊維を含まない天然の植物繊維でできているためコンポストが可能で、判定結果を確認したらトイレットペーパーと同様にトイレの水に流すことができます。

しかし、長所は環境にやさしいだけではありません。現在はオンライン販売のみのようですが、書類のような薄さで同居人に悟られることなく、検査後も誰かに見つかることがない点で女性のプライバシーが守られています。

 

 

女性専用車両は男性差別?男女平等には特別措置も必要

 それぞれの国の歴史的特徴や情勢の影響、個人の経験や育った環境によって男女格差の感じ方は大きく違うため、フェミニストの人が全員同じレベルで男女平等を考えているとは限りません。

 

筆者の知人男性にも、日本で実施されている女性専用車両は男女を区別している時点で男女平等ではないと言う人がいます。しかし、これは男性を排除するためではなく、女性が安心して電車に乗ることができる権利を守るために考えられた措置です。つまり格差是正を図るためにとられた措置なので、そもそも差別かどうか考える必要があるか疑問に思われます。

ある鉄道会社ではこのような意見に対し、任意の協力の元で行っていることで強制力を帯びないことや導入した目的などから差別には当たらないとしています。

 

男性と比べ、ライフステージによって生活環境や心身の状態が大きく変化する点では、女性は生まれながらにして埋められない格差を持っているとも言えます。女性特有の体調不良や妊娠、出産を経験する女性が、男性と同じレベルで仕事をして稼げと言われたら難しい場合が多く、不平等に感じる女性もいるのではないでしょうか。男性側でもそのように元々避けられない格差を感じている点はあるでしょう。

元々ある格差の上に成り立つ平等でなければ平等とは言えません。何もかもを平等にすれば良いというわけでもないというのが男女平等の難しいところです。

 

 

 

出典:

https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/screening/screening.html

https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000784018.pdf

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