文化の盗用とは/チャイナドレスや着物を白人が着るのはNG?

文化の盗用とは チャイナドレス 着物

ロンドンを含めヨーロッパのヴィンテージショップやマーケットで、日本の着物が売られているのを目にする機会は少なくありません。着物を着る機会は日本人でさえもあまり多くはないのに、ヨーロッパで着物が売られている理由はファッションアイテムとしての需要があるからなのでしょう。実際に街中では時々、白人女性が着物や羽織をコートやジャケットのようにお洒落に着こなしているのを見かけることもあります。

このような光景を見たり聞いたりして「文化の盗用だ!」と、不快に思う日本人は少ないのではないでしょうか。どちらかといえば「海外の人が着物に興味を持ってくれて嬉しい」と、感じる人が多いでしょう。

「文化の盗用」という言葉を聞く機会が増えましたが、この記事ではどのような場合にそう言われることが多いのか、他の文化をどのように扱うべきなのかについて考えていきます。

文化の盗用とは?

「文化の盗用」は英語の「cultural appropriation」を和訳した言葉で、自分とは異なる文化圏の要素(民族衣装や宗教的なモチーフ等)を他の文化圏の人が流用する行為を指します。appropriationは私物化と訳すこともできるため、他人の物をまるで自分の物のように使っているといったイメージがあります。一般的にはマジョリティー(人口が多く社会的に立場が強い)の人たちが、マイノリティー(人口が少なく立場が弱い)の人たちの文化を流用する場合を指すことが多いようです。マジョリティーがマイノリティーの文化を流用する場合、文化を守ってきた人たちに還元されるものが何もない、その人達の存在が無視されてしまうなど、倫理的な問題が発生しやすいからです。

しかしながら他文化を流用する行為自体が常に間違ってると言い切れないため、SNS上などで絶えず論争が巻き起こっています。

文化の盗用- チャイナドレスの例

プロム(米国の高校で春に行われるダンスパーティー)でチャイナドレスを着用した写真をSNSに投稿した一般の白人女性も、「文化の盗用」と非難の対象となったことがあります。

この際にはティーンエージャーの女性をSNS上で袋叩きにするような状況に対して、違和感を覚えた人も少なくありませんでした。

実はチャイナドレスには日本の着物などの民族衣装とは若干異なる背景があり、中国人の多くはこの女性の件を「文化の盗用」だと考えていなかったようです。チャイナドレスのルーツは満洲族の民族衣装ですが、清朝の時代に漢民族にも広まり、それが1930年代の上海でセクシーな要素を取り入れたものに変化しました。中国人にとってのチャイナドレスはヴィンテージ風ドレスとさほど変わらない扱いなのかもしれません。そのせいかチャイナドレスを着た女性をクールだと賞賛する、中国人SNSユーザーによる投稿もいくつかありました。

しかしながら、チャイナドレスが流用しても中国の人たちにとって不快でないものであったのは、単なる偶然だったとしか思えません。もし流用したものが宗教的なモチーフで、それが神聖な儀式の際に用いられるものだったとしたら、違った反応が返ってきたのではないでしょうか。どちらにしてもその文化を深く知らないのに、見た目の綺麗さやカッコよさだけを真似るべきではないのです。

文化の盗用- ファッション業界の例

2019年のディオールのコレクションは、メキシコの女性騎手エスカラムサと、ある小説の登場人物のチリ人からインスパイアされたものでしたが、メキシコ人やチリ人ではなく米国人女優のジェニファー・ローレンスを起用したため、批判の対象となりました。

しかしながらディオールを擁護する声も少なからずあり、その多くはディオールがメキシコの伝統や文化に敬意を払った上でキャンペーンを行ったことを評価する内容でした。

騒動の後ディオールは、メキシコ人女性フォトグラファーがメキシコで撮影した写真を最新の雑誌に掲載するとコメントを発表しました。

文化の盗用- 日本の着物の例

文化の盗用には、日本の着物の例も少なくはありません。2019年に米国のタレントのキム・カーダシアンが自身の補正下着ブランドに「KIMONO」と名付けたニュースは大変有名で、腹が立ったという人も多かったのではないでしょうか。

このニュースには京都市からの抗議を含め、アメリカ国内外から多くの批判が集まり、最終的にはブランド名を変更することで騒ぎが治まりました。

他にも着物に関する文化の盗用の例には、2015年にボストン美術館で行われた、モネの作品「ラ・ジャポネーズ」の前で着物を着て記念写真を撮るイベントの中止、2017年にモデルのカーリー・クロスが芸者風スタイルでVogue誌上に登場したことなどが挙げられます。

補正下着の例には腹を立てた日本人が多かったのは事実ですが、ボストン美術館やVogueの例は、欧米人にとって敷居が高いという着物のイメージを一度払拭し、そこから日本文化へ興味を持ってもらえる良い機会だと感じる日本人も多いのではないでしょうか。冒頭のヴィンテージショップの例に関しても同じことが言えます。

キム・カーダシアンに宛てた京都市の抗議文には、

「私たちは、『KIMONO』『きもの』『着物』の名称は、きものやきもの文化を愛する全ての人々の共有財産であり、私的に独占すべきものではないと考えます」

という文言があり、着物は日本人だけの財産や所有物ではないことが分かります。

文化の盗用- K-POPと音楽の例

文化の盗用は、元々はかつての白人による植民地支配やそれに準ずる思想を批判するために作られた言葉であるようにも思われます。しかしながら、K-POPアーティストも度々文化の盗用を指摘されているため、白人を批判する場合にのみ使われる言葉ではありません。

最近ではK-POPアーティストも他文化に敬意を払って活動することが多くなったようで、たとえばBTSはもともと黒人の音楽であるHIPHOPを歌うグループとしてデビューしたため、BLM運動(黒人に対する人種差別の撤廃を訴える国際的な運動)に1億円の寄付をしています。金銭的なサポートもその文化への還元となります。

HIOHOP、ロック、ジャズなど現代の音楽の多くは黒人の文化にルーツがあります。それでも黒人の多くは「勝手に自分たちの音楽を使わないでほしい」とは思っておらず、「敬意を払って楽しんでほしい」と思っているのではないでしょうか。

文化の盗用で炎上しないために

多文化を流用する際に忘れてはならないのは、流用させてもらう文化に対する正しい理解とリスペクトです。

着付けの勉強をしている外国人を見たら、多少着方を間違えていたとしても嬉しいと感じる日本人が多いのと同じように、理解しようという姿勢があれば許されることが多いのではないでしょうか。

日本と海外では文化や習慣が異なることは当たり前なので、海外の人とビジネスする際にはリサーチが必要だということを覚えておかなければなりません。

弊社では海外市場のリサーチを承っております。ご興味のある方は気軽にお問い合わせください。


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