禅-zen-ブーム到来?海外で人気の日本式メンタルケアの可能性
昨年、タイヤメーカー・ブリヂストンがウェルビーイング事業に参入し、“無”になるサロンを開業したことが話題になりました。スマホも本もイヤホンも無しの空間で、バーチャル森林浴をしながらタイヤ製造技術を生かしたベッドに身を委ねたり、シーシャのようにお茶を吸ってリラックスしたり。
過去記事「ウェルネスツーリズムの市場規模/インバウンドに向いている理由」でも触れましたが、コロナ禍を経て物質的な豊かさにとどまらない幸福を追求する人々が増え、ビジネスもそれに応えるようなものが求められる時代になっていることが窺われます。
今回は、注目されはじめている禅が海外ではどのように捉えられているか、メンタルケアにどれくらい関心が持たれているかなどについてまとめました。
「禅zen」はアメリカやフランスでブーム?海外の反応は?
海外における「禅zen」の意味
禅は元々、日本で発展した仏教の一形態で坐禅修行をする禅宗のこと、あるいは精神を統一して真理を追究するという意味の言葉です。
しかし、海外ではそのような宗教的な意味ではなく、「リラックスしていて、変えられないことについて心配していないこと(ケンブリッジ英英辞典より)」と訳され、「リラックスしたムード」や「穏やかさ」を表す時に使用される言葉として定着しています。
海外における「禅zen」再流行の背景
海外におけるメンタルケアと言えばヨガやマインドフルネス、メディテーション(瞑想)が浮かびますが、禅はこれらより以前の1950年代に欧米で広まっています。
一方、近年よく耳にするマインドフルネスは、1990年代に脳科学や心理学の分野で効果が証明されたことによって、2000年代に英国政府(NHS)や米国海軍、Google、Appleをはじめとする様々な分野での採用がはじまり、世界的に大流行しました。
この間、禅は一部継続的な支持はあったものの広がりは停滞。後に、私たちも経験した新型コロナウィルスパンデミックでストレスや不安、孤独が社会に蔓延し、心のケアの需要が世界的に高まったことで再度注目されるようになりました。
大流行したマインドフルネスは、仏教思想に基づいていることもあり、そのルーツをたどる中で、より深い“本物の静寂”や“悟り”に惹かれ、禅に興味を持つ人が増えていったと考えられます。
また、ミニマリズム、和の美学、茶道、建築など、日本の“引き算の美”は海外で根強い人気がありますが、禅はそれらの哲学的基盤とされ、アート・ライフスタイルの領域でも注目されています。
メンタルケアへの関心が高い海外 ―「禅zen」にも可能性あり?
海外、特に欧米で禅が受け入れられたのには、メンタルケア全体への社会的関心の高さが土台としてあったからでもあります。
アメリカではメンタルヘルスは社会的な課題として広く認知されており、心理カウンセリングやセラピーは特別な人のものではなく、誰でも受けるべき自己投資の一環とされている傾向があります。今ではBetterHelpやTalkspaceのようなアプリを通じて、手軽にオンラインセラピーを受けることができますし、マインドフルネスは企業や学校にも浸透しています。
また、弊社のあるイギリスでは、国営医療制度 NHSで無料または低額でメンタルヘルスサービスを提供しており、若者を中心にマインドフルネスや瞑想、カウンセリングの利用が急増。「Mental Health Awareness Week(精神健康意識週間)」などの啓発キャンペーンも定期的に実施しています。
ヨーロッパ諸国では心理療法やカウンセリングを保険でカバーできる国が多く、特に北欧では、メンタルヘルスは福祉政策の一環として重視されており、心の健康は公的サービスの中核と見なされているようです。
このように、メンタルケアが医療としても認められるほど重要視されている欧米では、ウェルネスを追求する現代の流れにも後押しされ、メンタルケアの1つである禅や禅に纏わるビジネスへの関心がより広がっていくことが窺われます。
「禅zen」スタジオやリトリートが海外では人気 ―今後は禅カフェも?
欧米で禅が再注目されている証拠として、禅体験ができる場の増加が挙げられます。
例えば、マインドフルネス・座禅・呼吸法に焦点を当てたワークショップを定期開催しているL'Atelier de la Méditation(フランス)、禅マスターによる講義と座禅、伴奏に合わせた詩や経文朗唱などが含まれる6日間の禅リトリートなどを開催しているAkazienzendo(ベルリン)、ベトナム出身の禅僧ティク・ナット・ハンの教えに基づく、若者向けマインドフルネス・禅プラクティスコミュニティWake Up London(イギリス)などです。
このように、定期セッションや講話の「スタジオ形式」や数日間の禅修養をする「リトリート形式」、それらを文化体験(茶道、書道など)と融合したものなど、禅体験の選択肢が豊富にあります。
一方、日本で人気の「禅カフェ」はまだ海外にはそれほど広まっていないようです。「zen」と名の付くカフェはありましたが、和の空間で抹茶や健康に配慮した食事を楽しむというコンセプトで、禅体験ができるわけではなさそうでした。
禅を本格的に体験するのではなく、日常に禅的な時間、つまり無になる時間を取り入れて一息つきたいという人の方が一般的には多いと思われますので、気軽に立ち寄れる禅カフェビジネスは、今後成長が期待できる分野かもしれません。
「禅zen」や「メンタルケア」分野で海外進出を目指してみては
心の健康は身体の健康と同じくらい大切という人々の価値観の変化によって、その重要性が再認識されはじめているメンタルケア。人間が幸福であるためには、物質的豊かさも必要ですが、それだけではないということです。企業は様々な製品やサービスを提供し、消費者の生活を豊かにしています。しかし今後は、消費者の精神的な幸福にも重点を置き、物質的な豊かさに拘らない幸福へのアプローチが必要になってくると言えるでしょう。
日本の禅文化が単なる宗教ではなくライフスタイルとして定着しつつある今、禅を取り入れたビジネスで海外進出を考えてみてはいかがでしょうか。
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