オーバーツーリズム対策の「二重価格」海外事例―差別や違法ではない?

姫路市が姫路城の入場料(入城料)に「二重価格」を導入する方針を固めました。現在は18歳以上一律1,000円ですが、2026年春からは市民以外の料金が、その2、3倍となる2,000~3,000円程度に値上げされるとのことです。城の維持管理費を確保するのが狙いですが、「差別や違法にはならないの?」「そもそも二重価格って何?」などという疑問を抱いた方も多いのではないでしょうか?

二重価格は日本国内ではあまり馴染みがありませんが、国外の主要な観光地では随分前から導入されています。

二重価格制度についての簡単な説明から海外観光地における導入事例、違法に当たらないのか、などについてまとめました。

 



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オーバーツーリズムにおける「二重価格」制度とは?わかりやすく言うと

オーバーツーリズム対策など、インバウンドにおいて設定された二重価格(dual pricing)制度とは、自治体や事業者が、インバウンド(訪日外国人)向けの製品やサービスの価格を日本人よりも高めに設定する制度のことです。国籍ではなく、地元住民とその他観光客で区別されている場合もあります。

オーバーツーリズム対策だけでなく、観光資源維持の財源確保や、円安で金銭的負担能力が高い訪日外国人により多く出費してもらってインバウンド消費を拡大するなどの目的もあり、訪日外国人向けの対応や接客コストがかかる観光地のホテルや飲食店では、二重価格の導入に前向きな動きが見られています。

「二重価格」の海外事例〈導入国別〉

※2025.1現在のレートで換算

二重価格事例① タージ・マハル(インド)

・インド人:50ルピー(約90円)

・外国人観光客とインドに居住していないインド人:1,100ルピー(約2,000円)

・15歳未満の子どもは入場無料(インド人、外国人ともに)

二重価格事例② ルーブル美術館(フランス)

・通常料金:17ユーロ(約2,800円)

・18歳未満:無料

・EU圏在住者18-25歳:無料

二重価格事例③ メトロポリタン美術館(アメリカ)

・通常料金:大人30ドル(約4,700円) / 65歳以上22ドル(約3,500円) / 学生17ドル(約2,700円)

・12歳未満:無料

・ニューヨーク州居住者およびニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの学生:任意の金額(チケット1枚につき最低0.01ドル)

 任意の金額は「Pay-What-You-Wishチケット」と言って入場料を自由に決めることができます。オンラインで Pay-What-You-Wishチケットを購入するにはニューヨーク州の請求先住所が必要で、ニュージャージー州とコネチカット州の学生は有効な学生証を提示して当チケットを直接購入する必要があります。

二重価格事例④ アンコールワット(カンボジア)

・カンボジア人:無料

・外国人観光客:1日入場券37ドル(約5,800円)/ 3日62ドル(9,700円 )/ 7日72ドル(11,000円)

二重価格事例⑤ ギザのピラミッド(エジプト)

・エジプト人、アラブ諸国の観光客:大人60エジプトポンド(約186円) / 学生30エジプトポンド(約93円)

・その他外国人観光客:大人700エジプトポンド(約2,200円) / 学生350エジプトポンド(約930円)

上記の価格はエリア入場料のみで、2025年より、大人540エジプトポンド(約1,700円)、学生270エジプトポンド(約840円)だった料金が上記の価格に値上げされました。また、クフ王ピラミッドの内部見学ができるその他外国人観光客向けチケットは、900エジプトポンド(約2,800円)から1,500エジプトポンド(約4,600円)に大幅に値上げされています。

二重価格事例⑥ マチュピチュ(ペルー)

・ペルー人、ペルー居住者、アンデス共同体の国籍所有者、学生:64ドル (約1万円)

・外国人観光客:152ドル(約24,000円)

※チケット代は訪問するサーキットやオプションによって異なる

※アンデス共同体……略称CAN(Andean Community)。 南アメリカのいわゆるアンデス諸国、コロンビア、ペルー、エクアドル、ボリビア、チリの5ヶ国が1969年コロンビアのカルタヘナで条約調印したことにより発足した地域的経済統合。

 

「二重価格」制度は違法ではない?消費者庁によると

消費者庁の二重価格表示ガイドラインによると、以下のような場合などは二重価格表示違反になります。

比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合

実際の販売することのない価格を比較対照価格とする

 例えば、定価1万円の商品を2割引の8,000円と表示して販売していますが、実際の定価は1万円より安く、あたかもお得に見せかけている場合などは「不当表示」に当たるということです。

一方、今回取り上げたオーバーツーリズム対策の二重価格表示、すなわち地元民と外国人とで異なる料金を表示している場合は、相手に応じて料金を変更しているだけなので問題ないようです。

「二重価格」は差別では?外国人が納得する対策が必要

二重価格は、先に挙げた事例のように世界各国の有名観光地で導入され、10~20倍もの差をつけた価格で外国人向けチケットが販売されているところもあります。

オーバーツーリズム、インバウンドによる自国経済の活性化、持続可能性などのキーワードが溢れる現代は、観光資源の過剰利用対策や観光収入を地域住民に還元していこうなどという人々の意識が高まっており、そのような経済的、社会的、環境的な要因が関係して、二重価格の導入が当然の流れとなってきています。

加えて、消費者の属性によって価格を変更して表示することは違法にはならないということも分かりました。

しかし、インバウンド事業関係者の中には、「国籍によって料金を変えることは差別なのでは?」「こんなことをしていたらお客が離れてしまうのでは?」という不安も広がっています。

海外ほど認知されていない二重価格は、日本国内ではどのように考えられているのでしょうか?訪日外国人観光客に納得してもらえるような対策はあるのでしょうか?

再来週の記事では、本記事の続編として、以上の点をテーマとして取り上げる予定です。

 

 

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出典:https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/double_price

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