バービーは今年65歳?多様性やフェミニズムを取り入れる理由
映画「バービー」は昨年公開された映画の中で最大のヒット作となり、その興行収入は2025億円を超えました。ワーナー・ブラザース配給の作品としてはハリー・ポッターを抜いて史上最高額です。日本では例外的にあまりヒットしませんでしたが、その背景にはやはり*バーベンハイマーミームがあったのかもしれません。また、世界で累計10億体以上売り上げているバービー人形とはいえ、日本ではリカちゃん人形に思い入れのある人が多数派であることも原因に上げられています。
それでも映画を機に「バービー人形」というブランドが多様性やフェミニズムを重視していることを知った人や、この問題について考えさせられた人が多いのは確かでしょう。
そんなバービー人形の発売が開始されたのは1959年3月9日で、今年でちょうど65周年を迎えます。この期間にどれほどの玩具が発売されたかは不明ですが、その中で現在も販売され続けている玩具は稀であるといえます。こう考えると、バービー人形が生き残るために多くの困難を乗り越えてきたことが想像できます。
*バーベンハイマーミーム 原爆開発者ロバート・オッペンハイマーを描いた『オッペンハイマー』と『バービー』がアメリカでは同日公開であったため、この2本の映画を両方見て楽しむ「バーベンハイマー」という造語がインターネット上で流行。ファンが作成したキノコ雲とバービーをコラージュしたSNS画像に『バービー』公式Twitterアカウントが好意的に反応したため、特に日本で大きな批判を生んだ。
映画の中のマテル社は男性社会でしたが……
映画の中では男性社会の風刺として登場したバービー人形の製造メーカー・マテル社ですが、実際は世界最大手の玩具製造メーカーで、働きたい企業として挙げられることも多いです。昨年マテル社の社長兼最高執行責任者を退任したリチャード・ディクソン氏は2018年のインタビューでバービーの長生きの秘訣を語っています。
映画の中では女の子が「ありえない体形を理想化し女の子の自信を奪う、フェミニズムを50年後退させたファシスト」とバービーを批判しましたが、「バービーほど愛され、それと同時に嫌われてきた玩具は稀だ」とリチャード・ディクソン氏も認めています。たしかにバービーの完璧すぎるモデル体形は摂食障害の引き金となり、長いブロンドの髪は女性に対する美意識の偏りを生み出してきたといえます。
しかしながら人形という玩具は「女の子の憧れ」を投影していなければ、そもそも販売するのが難しいでしょう。だからといって「女の子の憧れ」の答えを一方的に消費者に押し付けるべきではありません。それに「女の子の憧れ」は国や文化などによって大きく異なります。
例えば他国で売り上げが好調なバービーが日本であまり売れない理由も、日本の女の子がバービーのようなセクシーな女性よりもリカちゃんのような可愛い女性に憧れる傾向があるからです。(実はこれに対応すべく、バービー人形は日本向けに顔立ちやメイクが変更されているようです)
「女の子の憧れ」はこのような国や文化の違いだけではなく、時代によっても変化していきます。1959年から現在に至るまでのバービー人形を見比べてみると、顔立ち、メイク、ファッションなど、その違いは一目瞭然です。バービー人形は時代の変化に柔軟に対応しながら最先端のトレンドを取り入れることで、常に「女の子の憧れ」の形を模索してきたのです。
多様性バービー、最初は不評だった
「売り上げが低迷した時期はいつも同じ間違いが起こっていた」とリチャード・ディクソン氏は言及しています。その間違いとは「今起こっていること」と「ブランドが伝えたいメッセージ」が、マッチしていないことでした。
リチャード・ディクソン氏は2010年に一時的にマテル社を退職しましたが、2012~2014年の間にバービー人形の売り上げは2割減少してしまいました。この期間に徐々に社会全体が多様性やフェミニズムを重要視するように、変容し始めたのでしょう。
再びマテル社に戻ったリチャード・ディクソン氏はブランドの立て直しに取り掛かります。そこで生まれたのがいわゆる多様性バービーでした。これによってバービー人形のバリエーションは、7種類の肌の色、18色の目の色、4種類の体型となり、当時インターネット上では大きな物議を醸し出しました。
マテル社はダウン症のバービーも発売。その特徴
現在まさにインターネット上で物議を醸し出しているのは、マテル社が昨年11月に発売したダウン症をテーマにしたバービー人形「バービー ファッショニスタ イエローブルーフローラル」と、ダークヘアの「キラキラバービー ピンクフリル」です。
「バービー ファッショニスタ イエローブルーフローラル」は、全米ダウン症協会の協力のもとでデザインされ、ダウン症の女性の特徴を表現するために、丸みを帯びた顔、小さな耳、平らな鼻筋、アーモンド型寄りの目となっています。またファッションにはダウン症のシンボルである蝶や、ダウン症の認知度を表すブルーとイエローの配色が取り入れられています。ピンクのペンダントには、ダウン症の人が持つ21番染色体を表す3本の矢印が描かれており、それを外側に向けることで、立ち上がって前進することを表現しています。さらに歩行をサポートする足首用装具(AFO)が付属されているのも特徴です。
インターネット上には様々な意見が見受けられますが、多用な人達に対する理解を深める機会をマテル社とバービー人形は提供しています。
バービーのアイデンティティとは
最初に多様性バービーが発売された頃は「こんなのバービーじゃない!」という批判的は意見も少なくありませんでした。それでも今では「バービー」として受け入れられている理由は顔や体形などが変わっても、常にトレンドをリードする女の子というバービーのアイデンティティが失われていないからです。
バービー人形に限らず、商品やサービスの売り上げが低迷している時には時代の流れと会社が提供しているものが噛み合っていない可能性があります。時代に順応しながらも独自のアイデンティティを残していくことが、息の長いブランドを作る鍵となるのではないでしょうか。
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