【ヨーロッパSDGs取り組み事例】達成度が高い理由と課題
地球環境に関する最初の世界会議である1972年のストックホルム会議から53年。そしてSDGsが採択された2015年から10年。日本でも「SDGs」や「持続可能(サステナブル)」を日常的に耳にするようになり、ライフスタイルやビジネスなど、ジャンルを問わず欠かせないキーワードとなってきています。
「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」は、持続可能な社会のために世界中の国が取り組むべき17項目からなる目標です。
しかし、その取り組み方は国によって違います。例えば、同じ「sdgs1. 貧困をなくそう」という目標に対して、デンマークでは銀行が普通預金口座を通してNGOを支援し、スイスでは製薬会社が低価格の医薬品を低所得国に提供しているといったように、全く違う組織が違うアプローチの仕方をしています。
日本以外の国では、SDGsはどのように推進されているのでしょうか。世界の達成度ランキング2024(最新)とSDGs先進国と言われるヨーロッパ諸国の取り組み事例をご紹介します。
▼SDGsの17の目標についてはこちら
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SDGsに取り組むヨーロッパの現状 達成度が高い理由と課題 ―SDGs達成度ランキング2024より
SDGs達成度ランキング2024
国連が1年に1度行っているハイレベル政治フォーラム(HLPF:High-Level Political Forum)には、閣僚やビジネスと市民社会のリーダー2,000人以上が出席し、SDGsの進捗状況を把握します。
2024年6月発表「Sustainable Development Report 2024(持続可能な開発レポート2024)」内にあるSDGs達成度ランキング2024は、1位フィンランド、2位スウェーデン、3位デンマーク、4位ドイツ、5位フランス、6位オーストリア、7位ノルウェー、8位クロアチア、9位イギリス、10位ポーランドでした。
例年同様、北欧諸国がトップ3を占め、上位10ヶ国までにランクインしたのは、すべてヨーロッパの国ということになります。
ちなみに、日本は後退した昨年21位から巻き返して18位にアップ、英国は11位から9位へとアップしています。
ヨーロッパのSDGs達成度が高い理由
このように、なぜランキングの上位がヨーロッパの国々ばかりなのでしょうか?
それは、EU全体でSDGsを達成するための具体的な政策や法規制を早期に導入しているからと考えられます。特に気候変動対策、再生可能エネルギーの推進、環境保護などの分野で強力な規制を敷いており、2019年には使い捨てプラスチックの製品流通を禁止する法案「特定プラスチック製品の環境負荷低減案」がEU委員会によって採決、2021年には温室効果ガスの排出を大幅に削減する目標「グリーン・ディール(Green Deal)」を発表しています。
これによりEU加盟国は国内法制化をはじめ、プラスチックのリサイクル率アップや使い捨てプラスチック包装の禁止、プラスチック課税などに関する政策を施行。
SDGs達成度ランキングの上位順位に変動は見られず、それはヨーロッパがいかにSDGsの取り組みに積極的かつ実践的に取り組んでいるかの顕れと言えます。
更に、北欧諸国は、他国のほとんどが達成できていない「sdgs 1. 貧困をなくそう」「sdgs 3. すべての人に健康と福祉を」「sdgs5. ジェンダー平等を実現しよう」「sdgs 6. 安全な水とトイレを世界中に」「sdgs 7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」のうち少なくとも2~3つを達成しており、トップ3を占めているのも頷けます。
SDGsランキング上位のヨーロッパにも課題が
しかし、上位にランクインしたヨーロッパ諸国にも課題はあります。
同レポート内(P.36)にはOECD加盟国などの達成度を色で示した一覧表があり、5色の色で項目ごとの達成度を把握することもできます。グリーンは「目標達成済み」、他は未達成で、イエロー・オレンジ・レッドの順に達成度が高く、グレーは「データなし」というように分けられています。
この表によると、上位のヨーロッパ諸国でも、17のSDGs目標すべての達成が順調に進んでいるわけではないということが分かります。「sdgs2. 飢餓をゼロに」「sdgs12. つくる責任 つかう責任」「sdgs13. 気候変動に具体的な対策を」ではほとんどの国がレッド、「sdgs14. 海の豊かさを守ろう」「sdgs15. 陸の豊かさも守ろう」「sdgs17. パートナーシップで目標を達成しよう」でもレッドやオレンジが目立ちます。
気候変動や環境保護対策に力を入れていると先に述べましたが、目標達成には至っていないのです。ほとんどのOECD加盟国は、貿易と消費を通じ国境外で環境への重大な負の影響を生み出し、他国のSDGs達成の取り組みを妨げていると言われています。
達成率が「Moderately Increasing(緩やかに増加)」あるいは「Stagnating(停滞)」しているため、他の地域の国と比べてスコアが高いのでしょうが、経済成長を環境への悪影響から切り離すための努力がまだまだ必要というわけです。
出典:「Sustainable Development Report 2024」https://s3.amazonaws.com/sustainabledevelopment.report/2024/sustainable-development-report-2024.pdf
ヨーロッパSDGs取り組み事例6選〈国・企業〉
SDGsの達成度を高く評価されているヨーロッパの国々ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。興味深い事例を6つご紹介します。
1. フランス|従業員のエコ旅行を奨励
「sdgs8. 働きがいも経済成長も」「sdgs13. 気候変動に具体的な対策を」達成を目指す
フランスの企業Vendredi(ヴァンドルディ)は、従業員が列車やバス、自転車などの環境にやさしい交通手段で長距離旅行をする際に、追加の有給休暇を提供する制度を導入しています。従業員の約3分の1がこの制度を利用し、二酸化炭素排出量の削減に貢献しています。
2. フィンランド|持続可能な再生繊維セルロースファイバー
「sdgs9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」「sdgs12. つくる責任 つかう責任」「sdgs13. 気候変動に具体的な対策を」達成を目指す
フィンランドの企業Spinnova(スピノバ)は、木材や農業廃棄物などのセルロース原料から、化学薬品を使用せずに繊維を製造する技術を開発。従来の繊維製造に比べて環境への負荷が少なく、持続可能なファッション業界の実現に貢献しています。
▼スピノバについてはこちらの記事にも
SDGsな再生繊維。リサイクル循環を可能にする海外企業の繊維技術例
3. スウェーデン|複数企業による若者のギャング犯罪防止プログラム
「sdgs4. 質の高い教育をみんなに」「sdgs8. 働きがいも経済成長も」「sdgs16. 平和と公正をすべての人に」達成を目指す
スウェーデンの大手企業であるSpotifyやTelia(テリア:電気通信事業者)、H&Mなどは、犯罪率の高い地域の若者に有給の仕事を提供する「Next Generation Sweden」プログラムを開始。この取り組みは若者がギャングに関与するのを防ぎ、教育と雇用の機会を提供することを目的としています。
4. デンマーク|エコ・ビレッジ「UN17 Village」
1つの取り組みで17のSDGsすべての達成を目指す
デンマークで行われている「UN17 Village」という取り組みは、17の目標をすべて達成できるようなビレッジを建設するプロジェクト。広さ35,000平方メートルの敷地内にリサイクル建材などを使用した5棟の建物が建てられ、800人以上が居住できるようになるそうです。
ビレッジ内で利用されるエネルギーは、なんと100%再生可能エネルギー。屋上のソーラーパネルで自家発電をし、雨水を利用したコインランドリーなど年間150万リットルの雨水を再利用します。また、屋上庭園は多様な生物の住処となるよう想定されています。
多様な世代の人々が近隣と関係を築きながら暮らせるこのビレッジは、リサイクル建材や再利用エネルギーなどの自然環境面におけるサステナブルのみならず、住人が健康でダイバーシティに富んだ暮らしができるような考慮もされています。サステナブルなライフスタイルそのものを目指すことが目的という、斬新で要注目のプロジェクトなのです。ビレッジは2023年コペンハーゲンに完成予定。
5. デンマーク|子どものための健全な金融習慣の構築を支援する「Pocket Money」
「sdgs8. 働きがいも経済成長も」「sdgs10. 人や国の不平等をなくそう」達成を目指す
デンマークのある調査では、44%の子どもが銀行振り込みやモバイル決済によってデジタルで小遣いを貰っていることや、68%の親がお金の価値に対する理解などを子どもに理解してもらうために小遣いを与えていることが明らかになっています。
そこで、Danske Bank(ダンスケ銀行)はそのような親子向けにアプリケーション「Pocket Money」を開発。このアプリでは、子どもは自分の口座への入金や貯金の増え方を知ることができ、親は入金をしたり子どもの小遣いをチェックしたりすることができます。
6. ドイツ|検索エンジン「Ecosia」で世界中に植樹
「sdgs13. 気候変動に具体的な対策を」「sdgs17. パートナーシップで目標を達成しよう」達成を目指す
Ecosia(エコシア)とはベルリンに拠点を置く企業が提供している検索エンジンです。検索結果の横に広告を表示し、ユーザーがスポンサードリンクを経由して広告主のページにアクセスする回数に応じて、パートナーから収入を得る仕組みになっています。その利益の約80%(収益の47.1%)を森林再生や自然保護に特化した非営利団体に寄付し、最も木が必要とされる場所に植樹が進められることになります。
検索1回につき得られる収入は約0.005ユーロで、2019年1月時点で世界中で4,820万本の植樹を行ったという記録があるそうです。
また、検索のための電力を自社のソーラーエネルギー工場で供給したり、サーバーに使用する電力からCO2を排出しないようにしたり、細かい部分までサステナブルな配慮がされています。
この取り組みは、インターネット接続が可能な端末を持っている人なら世界中の誰もが気軽に参加できる点が魅力です。広告主だけでなく広い意味でのパートナーシップですね。
参考:「欧州のSDGs実践に関する調査(JETRO)」https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2019/ddba09c2ec3c478a/euSdgs201903.pdf
ヨーロッパを含むSDGs先進国の課題
上位のヨーロッパ諸国のほとんどが含まれるOECD加盟国は、他の国のグループと比べると、「sdgs1. 貧困をなくそう」「sdgs3. すべての人に健康と福祉を」「sdgs6. 安全な水とトイレを世界中に」「sdgs7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」のような、社会経済的成果とインフラストラクチャーへの基本的なアクセスに関する目標ではより良い達成度を上げています。
しかし、sdgs1やsdgs3はコロナウイルスパンデミックの影響で、医療制度の脆弱性および回復力と予防を強化する必要性を浮き彫りにされました。
他には、肥満率の上昇、所得の不平等、サービスや機会へのアクセス不平等も更なる対策が必要と思われる項目です。健康・教育サービスへのアクセスと質の不平等は、富裕層と貧困層の間、都市部に住む人々と農村部に住む人々の間など、人口グループ間で続いています。
同時に、「誰一人取り残さない」理念のために、OECD諸国は発展途上国の貧困、感染症、難民問題などへの支援もしていかなければなりません。そのためには莫大な資金がいるわけですが、資金創出に「グローバル連帯税」の推進を唱える専門家もいます。国境を越える経済活動(人やもの、金銭の移動)に課税し、その税収を開発途上国の開発資金に充てる方法です。どんな方法にしても、タックス・ヘイヴン(低課税地域、または租税回避地)に違法な資金流出がなされないよう、確実に貧困者に届けることが一番の課題です。
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