おもてなし=ホスピタリティ?日本と海外との違いを解説
「おもてなし」は日本にしか存在しない訳ではなく、英語に「ホスピタリティ(hospitality)」という言葉があるように、海外にもお客様をお迎えする際のマナーが存在しています。したがって「おもてなし」に対する適当な英訳は「ホスピタリティ(hospitality)」になりますが、そう言われても日本の「おもてなし」だけがなせか特別なものに思えます。辞書によってはわざわざ「ジャパニーズ・ホスピタリティ(Japanese hospitality)」としていることもあるため、「おもてなし」とホスピタリティは全く同じではないのかもしれません。そこでこの記事では日本と海外の「おもてなし」の具体的な違いを考えていきます。
日本と海外の接客の違い
英語ではレストランやホテルなどに従事する接客業やサービス業を「ホスピタリティ・ジョブ(hospitality job)」或いは「ホスピタリティ・インダストリー(hospitality industry)」と呼びます。海外でも当然のことながら高級なホテルやレストランでは、支払う金額に相応しい「おもてなし」を受けることが可能です。丁寧にお料理の説明をしてくれたり、スタッフの人のお勧めを教えてくれたりと、丁寧ながらも他人行儀過ぎない接客を受けられます。日本の高級店よりもフレンドリーな印象かもしれませんが、スタッフが「ホスピタリティの精神とは何か」を自分で考えて接客しているのかもしれません。
日本では高級店ではもちろんのこと、コンビニ、スーパー、ファーストフード店などでも丁寧な接客をされることが多いのに対して、海外ではそれらの場所で丁寧な接客がされることはほぼありません。スーパーのレジでは店員同士でお喋りをしていたり、ファーストフード店にはあまり愛想の良くない店員がいたりと、日本なら注意を受けそうなスタッフを見かけることも珍しくありません。同じ接客業であっても、これらの職種をホスピタリティ・ジョブと呼ぶことがあまりないため、スタッフがホスピタリティの精神を持っている必要がないのかもしれません。感じの良いスタッフもいますが、それは個人の性格のよる部分が大きく、企業側の方針ではないでしょう。
日本では「お客様は神様」という考えが浸透しているため、どのような職種であっても、相手がお客様であれば丁寧に対応しなければならないと考える人が多いのではないでしょうか。このような意味で、日本は「おもてなし」の国であると言えるのかもしれません。
日本「おもてなし」&海外「ホスピタリティ」、なぜ違いがある?
「おもてなし」と聞くと、ホテルや宿など宿泊施設での接客を真っ先に思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。実は日本と海外の「ホスピタリティ」に対する考え方の違いは、宿に対する考え方の違いから始まっているという説があります。
【海外と日本】ホテル&宿の発祥の違い
日本の宿の発祥は仏教の寺で、海外の宿の発祥は修道院であると考えられています。どちらも宗教が絡んでいるという点は共通していますが、宿泊する者と宿を提供する者の関係性が微妙に異なっているようです。
日本では平安時代に仏教ブームが起こり、貴族が寺に泊まり始めます。それ以降も身分の高い人が寺を宿として利用していたため、寺側は宿泊者をお客様として大切にもてなし、食事の提供もしていました。
ヨーロッパでも修道院が宿泊の場として提供されていましたが、宿泊者に食事を提供しておもてなしする風習はありませんでした。ヨーロッパでは宿泊する人が仮に貴族であったとしても、それ以上にキリスト教の地位が高かったため、日本のようなおもてなしが必要なかったのかもしれません。
【海外と日本】ビジネスとしてのホテル業の違い
江戸時代の日本には各地に宿場町が存在していました。ただし、当時の決まりでは宿泊料というものはなく、宿泊者が感謝の気持ちとしてお金を渡していたようです。家業として運営されていることが一般的で、ビジネスとしてお金を稼いでいるというよりは、家族全員で精一杯おもてなしをして、その対価としてお金を受け取っているというニュアンスが強かったのかもしれません。
一方、中世のイギリスにはホテルやインと呼ばれる宿泊施設が存在していました。日本とは異なり、ホテル側が宿泊料を決めていたため、その値段に見合ったサービスやおもてなしが提供されるようになります。この頃には、盗難や無賃宿泊の被害からホテル業を守る法律や、労働組合も存在していました。また、フロントスタッフ、シェフ、クリーナーなどの分業制も取られていたようです。
このように、日本の心を込めた「おもてなし」には、海外との歴史的な背景の違いが関係しているのかもしれません。
日本の「おもてなし」海外の反応
日本の高度な「おもてなし」に対しては、海外の人から様々な反応があります。
レストランでお水やおしぼりが無料で提供される、雨の日の買い物では紙袋の上からビニール袋をかけてくれるなど、海外ではあまり見ない対応に感激する人が多い一方で、時と場合によっては「過剰サービス」と感じる人もいるようです。海外の人が「過剰サービス」と感じる事柄の例には、デパートにエレベーターガールがいること、買い物をすると店員が店の外まで出てきて見送りすることなどが挙げられます。
接客業の「おもてなし」と「サービス」の違い
日本の「おもてなし」が過剰だと感じる人の心情としては、そこまでの「サービス」を望んでいないことと、日本にチップの文化がないことが挙げられるでしょう。「サービス」を受ける場合はそこに金銭が伴いますが、「おもてなし」を受ける際には必ずしも金銭を伴いません。たとえばレストランが客に食事を提供するのはサービスですが、自宅を訪れる友人に食事を提供するのは「おもてなし」です。
高級レストランでは丁寧な接客が料金に含まれていると考える人が多いため、精いっぱいおもてなししても過剰だと思う人は少なく、むしろ喜ばれます(ただし海外では精いっぱいおもてなししてくれたスタッフに対して、多めにチップを払う人が多いです)。一方、デパートのエレベーターガールに対して客は直接金銭を支払わないため、日本のデパートに慣れていない海外の人には違和感があるのでしょう。もしかしたら海外の人は内心、エレベーターガールにチップを払った方が良いのでは?と思っているのかもしれません。
同じことをしているにも関わらず、自宅を訪れる友人のためにエレベーターのボタンを押してあげたり、帰る際に外まで見送ったりするのには海外の人も違和感がないはずです。そう考えると、日本の「おもてなし」は「お客様を友人と同じくらい大切な人として扱う」という精神なのかもしれません。友人(或いは両親や家族など)に対してならば当然「料金を支払ってほしい」とは思わないので、無償のサービスになってしまいます。これを「おもてなし」と捉えるか「過剰サービス」と捉えるかは、個人の感性の違いと言うべきでしょう。
海外の「おもてなし」をもっと知りたい?
このように日本の「おもてなし」と海外の「ホスピタリティ」の意味はほぼ同じですが、解釈に若干違いがあることが分かります。
丁寧な「おもてなし」にマナーは欠かせませんが、弊社のあるイギリスはマナーに厳しい国というイメージを持っている人が多いかもしれません。下記の記事ではイギリスのマナーに関する様々な習慣を紹介していますので、こちらも合わせてご覧ください。
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